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目覚めるとすでに太陽は天高く上っていた。 時計を見る。午後の2時32分。 昨日は夜の戦闘だったため、寝たのは早朝だ。 そりゃ昼まで寝たくもなるよ。 カーテンはすでに空いていて、明るい日光が差し込んでいた。 心なしか明るい部屋。 僕は眠い眼をうっすらと開けながら周りを見た。 毛布は僕の腰辺りまでしかかかっておらず、上半身のスウェットが丸出しだ。 左にはすぐ壁があり、前を見るとぼんやりとドアが見えた。 数秒遅れて寝惚けた脳に右手に暖かい感触が電気信号として伝わる。 なんだ? 僕は視線をゆっくりと降ろし、右手を見る。 手があった。 いや、あるにはあるけどさ。 僕じゃない、誰かの手。 良く見れば、毛布がすこし盛り上がってるじゃないですか。 僕がすることはただ人だけしかない。 あらん限りの力を込めて、毛布をひっぺがす。 うりゃあっ。 「すー、すー」 クーが幸せそうな寝息を立てて寝ていた。半裸で。 あんぐり、と口が開く僕。 寝る前、ドアに鍵をかけた、という記憶が走馬灯のように走り抜け、また戻ってきた。 僕は施錠の具合を確かめるために、クーを踏まないように、起こさないようにそーっとベッドを降りた。 振り返る。クーのきれいな背中が見えた。同じ間隔でわずかに上下運動していた。 大丈夫、まだ寝てる。 僕は再び抜き足差し足でドアへと近づき、手を触れてみた。 うぃーん。 えらいこっちゃ。 廊下側のドアは、鍵の部分だけが何かでひっかかれたような跡があった。 鍵穴の部分にだけ執拗についている傷。 僕の脳裏に「ぴ」のつく単語が思い浮かぶ。 クーってそんなことする人だっけ? 「んぅー」 起きたー。 振り返り、クーに挨拶をする。 クーはまだ眠そうで幸せそうな顔をこちらへ向け、眼をこすりながら挨拶を返した。 僕は聞いてみた。 「ねえ、クー? 僕、ドアに鍵をかけていたんだけど」 「勿論、ピッキ」 「分かったよでもねお願いだから犯罪紛いのことはしてほしくないんだ確かにクーの気持ちは分からないでもないよ好きな人の傍にいつでも居たいって気持ちは僕も同じだけどだからと言って『ピーッ』はないんじゃないかなクーちゃんキミのやったことはマスコットが欲しいからって夢の国のネズミさんを中の人ごと連れてくるようなって例えが分かりにくいけどとにかく僕が言いたい事は頼むからよb」 あぁっ! 首をカクカクしないでクー! 眼をとろんとしないでクー! まだあと小一時間近くお説教したいんだから!
Mechanical Fairy ver,3.05 欺
しょぼん、と肩を落とすクーの前を僕はトコトコと歩く。 廊下は人があまりいない。多分、整備か何かで出払っているのだろう。 起きた僕達はすぐに涼風さんから部屋へ来るように言われた。 なので、廊下を歩いているわけだが。 いつまでもクーの周りは黒いオーラと青い炎みたいなのがゆらめている。 クーの気持ちも分からないではないんだけどな。 それにしても、あんなに手先が器用なのになんで料理は魔人を殺せそうな勢いなのだろう。 やっぱり天は二物を与えずってことなのかなあ。 でもクーは二物どころか五物ほど与えられているような気がするんだけど。 長所が多いからその分少ない短所が深いのかな? 谷と山の論理? ちょっとやりすぎじゃない? 「巧」 僕は、ぐりん、と180度ほど首を回そうと試みるがやっぱりダメだったので70度ぐらい回した。 クーはまだ頭を垂れて落ち込んでいるようだ。 「ごめんなさい」 あう。 そこまで落ち込ませちゃったか。 僕は身体をぐりんっと勢いをつけてクーのほうを向き、 「そこまで怒ってないから、ね? 正直僕もやりすぎちゃったって反省してるよ」 うん、さすがに計一時間五十三分二十四秒はやりすぎた。 カッとなってやった。今は反省している。 あ、クーの顔が上がった。 ちょっと顔が赤いかな。 うん、ごめん。 ほんっとごめん。 だからそんなうるうるした眼で見ないで。 涼風さんが僕たちを部屋へと招き入れた。 女性らしく薄いピンクやオレンジで統一された部屋だ。 なんとなく温かみがある。 机の隅には小さな手作りのぬいぐるみがあった。ところどころの継ぎ目が破れ、中の綿が見える。 「単調直入に言うわ。 相手が和解を申し込んできたの」 はい? 脳味噌が話の展開についていけない。 「それで、僕達となんの関係が?」 「えぇ、君とC00LNP9は私達と同行して、待機しててほしいの」 「なぜ?」 「それが交渉に臨むときの条件だから」 なんとなく腑に落ちない。 でも、涼風さんもなにがなんなのか把握できてないようだ。 相手からの一方的な連絡で、こちらからの要請には何一つ答えないのだそうだ。 なんとなく、不吉な予感がする。 案内されたのは、おそらく休憩所と思われる場所。 軍警察の施設に招かれて、涼風さんたちは交渉のテーブルへと着いた。 僕達はというと、隣の部屋に入れられて待機、ということになった。 中には丸いテーブルが五つと、一つのテーブルにつき椅子が四つ。 赤の自動販売機と青の自動販売機が奥の壁に数個並んでいた。 一人の男が座っていた。 濃い緑色の制服を着ていて、右胸には二、三個の勲章が見えた。 右袖にはオレンジのラインが入っている。 黒の短髪がツンツンと重力に逆らっていた。 眼は茶色の瞳に、全てを悟った―というより、諦めたような―半開き。 無精ひげが良く似合う、渋い三十代のような人だった。 僕とクーは彼からは少し離れたテーブルに座り、待つことにした。 数分の沈黙があった。 「君たちが、あの機体に乗っているのか」 重く、低い声だった。 一瞬誰が言ったのか把握できなかった。 クーは即座に彼のほうを向いていた。 僕もクーに続いて彼のほうを向いた。 彼は下を向いている。テーブルの上に置かれたコーヒーのコップには眼もくれない。 「つまり、あなたが量産型最後のパイロット、ということですね」 クーがいつもと違う、感情を押し殺した声で言う。 おお、怖。 彼は顔を上げた。 眼には力は感じられなかった。 いや、光すらなかった。背筋が寒い。 無言で彼は首肯した。 「君には、」 彼は言い放つ。 「守りたいものがあるか?」 光ない眼が僕を見ていた。 僕は、はっきりと言う。 守りたいものを守る。それが僕が闘う理由なのだから。 「えぇ、ありますよ」 彼の眉毛がすこし下がった。 「そうか」 それだけ言って、再び沈黙が場を支配した。 状況が急転したのは、その直後。 轟音が施設に響き、僕達の部屋もビリビリと揺れた。 なにが起こった? 振動が収まり、「まずは行動だ」とばかりにドアから部屋を出ようとした。 ドアが急に開いた。 そして、ドアから現れたのは、 「手を挙げろ」 自動小銃を持った数人、おそらく五人ぐらいの兵。 彼と同じ色、同じ形の服装。違うところは、右袖のラインが白ということだけ。 「なんのつもりだ?」 彼は顔を兵士のほうへ向け、眉を寄せた。 彼の眼の焦点は合っていない。 もしかして、彼は。 僕はクーを後ろにして、兵士達の一挙一動を見ていた。 「上からの命令です。あなた方は捕虜となります」 ……なんだって? つまり、これは、罠だった、と? 僕の心に沸々と怒りが湧いた。 クーも同じようで、黒いオーラが後ろから出ているのが分かった。 驚くべきは、彼も、ということだった。 どうやら、彼もこの謀略は教えてもらっていなかったらしい。 「君たちは、お偉いさんの大義のために立ち上がったのか?」 「い、いえ」 「君たちは、お偉いさんの大義のために汚い役をできるのか?」 「え、と」 「君たちは、お偉いさんの大義のために捨て駒にされるのを許容できるのか?」 「それは」 「君たちは、お偉いさんの大義のために死ねるのか?」 「……」 「銃を降ろせ。 今なら間に合う」 彼の声は、恐ろしく低かった。 おそらく、軍の上部だろうが大統領だろうが果ては竜だろうが神だろうが威圧できるだろう、そんな声だった。 兵士達は、一人、また一人と銃を降ろし、床へ捨てた。 彼は兵士達を睨みつけていた視線の力を緩め、こちらを向いた。 「ついてこい」
盲目の彼に連れて行かれたのは倉庫。 そこにはP−VALKYRIEと量産型があった。 彼は巧とクーを乗せ、自身は量産型には乗らず、見送るのだった。 次回、Mechanical Fairy「そして」
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