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「さあ、急げ」 倉庫へと案内した彼はP−VALKYRIEの前にあるリフトを操作していた。 僕たちは促されるままにリフトへと乗り、彼を見る。 「このボタンは」「これがこうで」と手探りに操作をする彼はやはり盲目なのだろう。 少し経ち、僕たちを乗せたリフトは徐々に上がり始める。 上がり始めたら自動で肩の高さまで上がるように設定されている仕組みだ。 上がりきったリフトから僕たちはコクピットへと乗り移る。 「早く行け」 重く低い彼の声は他に誰も居ない倉庫に響いた。 コクピットを閉め、クーが接続したのを確認し、僕は念じる。 ―起動(ラン)― 倉庫の扉を、推進器で加速してそのまま蹴り飛ばす。 ばごぉん、と豪快な音を立てて吹っ飛び、宙を舞う扉。 僕はそのまま推進器を斜め下に向け、雲一つ無い青い大空へと飛び上がった。
Mechanical Fairy ver,3.06 そして
数分後、僕たちは基地から少し離れた小高い丘の上に着地した。 どうやって涼風さんたちを助け出すか? 問題は単純明快。 その分、難しい。 とにかく、僕たちはどうすればいいのか? 行ったほうがいいのか? でも、今僕が持っている武器は短銃とナイフしかない。 じゃあ逃げるのか? 逃げたら、僕たちは涼風さんを見捨てた事になる。 どうすればいい。 僕たちが丘に着陸して考え初めてから数分経った時、基地のほうから爆発音が聞こえた。 ―!?― 基地を見た。 上がる黒煙。 ところどころで立ち上る硝煙と光る火薬。 まさか、戦闘が起こったのか? 涼風さん達は!? =巧、行きましょう= 落ち着いたクーの声が僕の脳に響いた。 =彼には申し訳ないことをしますけど、私達しか護れないものがありますから= 基地に着くと、既にそこは煙と火の海だった。 建物についた火は数え切れず、煙が森に生えた木のように山ほど立ち上っていた。 訓練が行われていたと思われる、芝生の広い敷地に人が見えた。 望遠で確認すると、会議場に居た人と、兵士達が見えた。 涼風さん達も視認できた。 火のついていない建物の屋上には黒い機体が見えた。 僕は機体のほうへと向かう。 もしかしたら、彼は人を襲うのかもしれない。 それだけは阻止しなければ。 推進器に動力を込め、僕は彼がたたずむ屋上へと飛んだ。 ―少し、話を聞いてくれないか― 屋上に到達した僕を見た彼が発した最初の一言だった。 足を屋上につけ、推進器を止めて体重を脚にかける。 ―君達は護るものがあると言ったな― 合成音声だが、僕たちのより少し低いように作られている。 僕は黙って聞く。 ―私にも、護るものはあった― 過去形だ。 僕の頭に掠めるものがあった。 ―この機体に乗っていた私達の5人は、いわゆる「落ちこぼれ」だ― 僕は何も言わない。 ―その「落ちこぼれ」に回ってきた華々しい役目― クーも何も言わない。 ―多分、終わったら退役になる手はずなのだろうが、それでも私達は嬉しかった― いや、 ―そして、私達は乗った― 何も言えなかった。 ―その初仕事が― 彼があまりにも、 ―君達FI社を襲うことだった― 悲愴だったから。 ―……生田導という人間は、強い人間に思えた― ―チーフが?― 僕は聞き返す。 ―チーフ、と呼ばれていたのか。 彼は、覚悟のある人間だった。 私達よりも― 再び僕は黙る。 ―その覚悟で、私達のうち、二人が、彼らは恋人同士だったのだが、居なくなった― ―そして、君達の「活躍」により二人が退役になった― ―恋人同士だった二人は、君達に良く似ていた― 僕は彼の独白を黙って聞くしかなかった。 ―……最初は、あの待合室で君達を殺すつもりだった― 右手を銃に添える。 ―だが、君達が入ってきたとき、その雰囲気で分かった― ―君達は、私が護ろうとしていた人達と、変わらない― ―そして、他人が奪っていいものではないのだ、と― ―そう、私達が君達から奪った「チーフ」と同様に― 僕は右手を下ろした。 ―だから私は君達を生かす― 彼は芝生へと向けられた顔をこちらへと向けた。 ―だから― 彼は、僕に突進してきた。 とっさの行動に僕は何も出来ず、突進を直に受けた。 後ろに吹っ飛ばされる僕。 彼はそのまま、僕を見ていた。 表情は無い。 だが、笑っていたように思えた。 その直後。 彼は、爆炎に包まれた。 三度、轟音が鳴り響いた。 彼の右腕や右のわき腹から炎と煙が立ちのぼる。 右を見た。 大きな大砲が三つ、こちらに照準を合わせていた。 ―……これが、「作戦」だった― 彼は消えそうな声で言う。 ―私が感心を引き寄せ、不意をうって大砲で君達を討つ― ―だが、私は君達に生きていて欲しい― ―君達は平穏に生きるべきなのだ― ―それが、今まで死んで行った者たちへの供養となる― ―そして、私の供養にも― 彼の合成音声はシステムが破壊されたのか、上ずったり雑音が混じったりした。 何度も何かを言っているようだ。 しかし、はっきりと聞き取れない。 僕は彼の傍に進み、必死に聞こうとした。 ―生きろ― 彼は言った。 そして、停まった。 強制的な停動(ランアウト)。 それはシステムの停止、そして、死を意味していた。 何も考えられなかった。 僕は微動だにしない彼を屋上に寝かせ、推進器に力を入れた。 右へと飛び、突進し、短銃を構え、照準を合わせ、滅茶苦茶に撃った。 大砲に幾つもの穴が開き、近くに居た人は逃げ惑う。 それでも僕は撃った。 弾が切れた。使い物にならなくなった短銃を投げ捨て、ナイフを取りだす。 大砲の前に、ズゥン、と音を立てながら着地。ナイフで切り刻む。 僕は止まらなかった。 クーの声が聞こえた。 でも、僕は止まらなかった。 大砲をただの鉄の欠片に変えて、やっと止まった。 今までしたことを思い返し、彼の言葉を思い出し、手が震えた。 その後、正規軍が到着し反乱軍は拘束された。 涼風さん達は無事に解放され、僕たちは平穏な日へと戻った。 「ほら、行きますよ」 朝の七時四十分。クーはドアの前から呼びかける。 僕はネクタイを結び、ブレザーを羽織り、鞄を掴んでドアを開けた。 ブレザー、濃紺の地に紫のチェック柄のスカート、大きなピンク色のネクタイ。 皮製の鞄は左手に持ち、姿勢正しく立っていた。 あれから、様々な取り決めがあった。 「機体」は全て処分、制作は禁止、と決まった。 素体達は目覚めるまで待ち、目覚めたら一般市民として様々な都市へと旅立つことになっている。 クーは「生田 久海」を名乗ることになり、涼風さんが親代わりになった。 涼風さんは今は亡きチーフの姓を取って「生田 涼風」と名乗っているようだ。 これは涼風さんが望んで行ったのだそうだ。 僕たちの学校へと編入され、こうやって平和な日々を過ごしている。 「巧」 通学路を歩いていると、僕の左を歩いているクーが呼びかけた。 「なに?」 横からは小学生達が笑いながら走り去っていく。 前には談笑するサラリーマン達がゆっくりと歩いていた。 「手、つなぎませんか?」 クーは何も持っていない右手を僕の方へ差し出す。 こんな街中で? 「えーっと、周りの人たちがすごい目でこっちを見てるんだけど?」 前を歩いていたサラリーマン達はこちらを振り返り、生暖かい眼で見た後前を向いた。 自転車に乗ってきた同輩達は「バカ!」と叫んでそのまま走り去っていった。 「いいじゃないですか」 無表情を崩し、口元をゆがめ、眉を弓なりにして、クーは僕の手をとった。 ぎゅっ、と握られる僕の左手。ぎゅっ、と握るクーの右手。 暖かい感覚が伝わる。 僕の護りたいものは、今ここにある。 「たまには、いいかな」 僕は顔が朱に染まるのを認識しながら、僕はゆっくりと笑顔になった。
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