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Mechanical Fairy ver,3.03 抗
「さて、」 広い部屋。白い壁紙。前にあるスクリーン。 細長い机と、並べられた椅子。僕はその真ん中あたりに座る。 クーは僕の隣に腰掛ける。 数十個ある席は全て埋まっている。 管制官、サポーター、技術者、その他この基地に居る全ての人が参加している。 涼風さんは前、スクリーンの隣に立ち、作戦行動について説明をしていた。 「まず、占領されている場所ですが、」 涼風さんはパネルを右手で操作した。 スクリーンに赤い点のついた地図が投影される。 僕らの居る研究所は地図の右上にある。 そこから左下に二個、真ん中に一個、赤い点がある。 左手にスティックを持ち、スクリーンを見ながら説明し始める。 「この赤い点が占領されています。順に、」 真ん中を指し、 「FI社の本社ビル、」 左下の二個のうち、上にあるほうを指し、 「FI社所有の工場、」 そして左下の、最下にある点を指し、 「そして、この地域の治安を守る軍警察の基地」 手首のスナップを利かせ、スティックを短くする。 こちらへ向く涼風さん。 「まず、本社ビルを奪還します」 一呼吸。 「本社ビルには、機体のサンプルデータがあります」 少しざわめいた。 涼風さんはざわめきが落ち着くまで待つ。 長く細く息を吐く涼風さん。 「このままでは、サンプルデータを解析され、量産されてしまいます」 拳を握ったのが見えた。 そのサンプルデータは、チーフが取ったのもある。 流用されるのがいやなのだろうか。 「……そうなる前に、本社を奪還し、データを死守します」 「質問」 おそらく技術者と思われる白衣の青年が手を挙げた。 涼風さんは青年のほうを向き、両手を腰に当てて、 「発言を許可します」 立ち上がる彼。 「仮に、本社を奪還したとして、他の場所を攻める時の本社の防衛はどうするのですか?」 確かに。 向こうの量産型は三機。こちらの機体は一機。 どうあがいても、こちらの守備は手薄になる。 すぅ、と息を吸い、出来るだけ落ち着いた声で涼風さんは答える。 「向こうの機体は?」 「五機です。 うち二機は既に撃墜されているので、残り三機です」 「占領された場所は?」 「三つです」 そうですね、と頷く涼風さん。 再び一呼吸おき、 「そして、彼らはいわば『反乱軍』です。 全軍を掌握しているわけではありません」 「……それが?」 青年は聞き返す。 「反乱軍と正規軍の多さは、実は正規軍の方が多いのです」 どうやら、反乱軍の強硬姿勢についていけない兵が多いようだ。 国家転覆などという行為に加担したくは無いのだろう。 「……つまり、数で勝っている正規軍は、あの量産型の力によって、手出しできない、と?」 首肯する。 「そう。 今、三つしか占領されていないのは、各場所で一機ずつ待機しないと奪われるから」 様々な場所から、あぁ、と呟く声が聞こえる。 僕の頭の中でも、歯車が噛み合う。 「逆に、その三機は『占領した場所から動けない』と言えます。 防衛のために、ね」 質問をした青年は頷き、納得した、と呟いて席に座った。 「さて、本社の奪還作戦ですが」 涼風さんは切り出した。 皆が固唾を呑んだ。 「巧くん、P−VALKYRIEの武装は何がありますか?」 突如指名された。 視線が一気に僕の方を向く。 僕は目を閉じ、頭で回想。一つずつ、思い出しながら言っていく。 「短銃と、ナイフと、バズーカと、大剣、ぐらいです」 「そう。 今回では、バズーカだけを使います」 涼風さんは投影された地図に、目をやる。 スティックを伸ばし、真ん中の赤い点を指す。 「ここにある量産型一機を、」 すすす、と右上の方に持っていく。 止まった場所は、山の麓。 距離にして、約五kmといったところだ。 「ここから狙撃します」 ざわめきが起こった。 当然だ。 まさかバズーカで狙撃などと言うとは思わなかっただろう。 もちろん、僕も。 「皆さん、静粛に」 重く、よく響く声で涼風さんは制止を呼びかける。 にわかに静かになる場。 「理由は二つあります」 ふぅ、と息を吐き出す。 「一つは、ライフルの製造が追いつかないこと。 この責は誰のものでもありません。  もう一つは、ライフルでは威力が足りないこと。 この作戦では一撃必殺を狙います」 一つの疑問が浮かんだ。 確かに、バズーカは威力は高い。 でも、ライフルほど命中精度は良くないはずだ。 「『あたるのか?』という疑問を持っている方もいると思います。  そこで、AIで命中補正をかけます。 ですが、時間が無いため、AI搭載の弾は一発しかありません」 僕の思考を読んでいるかのように、先に答えられた。 少しの間をおく涼風さん。 「巧くん、精度は一応補正をかけるけど、出来るだけ補正が無くとも機体に当たるよう、狙ってください」 山の麓に着く。実際は、竹林になっていた。 バズーカの射程に竹が入らない位置へと移動する。 『巧くん、聞こえる?』 少し雑音の入った、涼風さんの声。 ―聞こえます― 『マップに、目標の機体がある場所へマーカーを示したけど、わかる?』 確認する。 右下のマップに、黄色いマーカーが出ていた。 方向はばっちり、本社のほうを向いていた。 ―見えました― 『あとは時間を待って。 警備の休み時間が五分あるから、そこを狙うわ』 ―了解― バズーカを構えて、待機する。 竹林の中では、何もすることはない。 =巧= クーの声が聞こえた。 ―なに?― =これが終わったら、膝枕します= はい? 僕の脳内思考は先ほどの言葉を遮断したようだ。 ―ぷりーずみーわんすもあー― =膝枕します= ……うん、こんなときに何を言ってるんだろうこの娘は。 僕はバズーカを向けている先の施設を見た。 訓練でもしているのだろう、黒い量産型が結構な速さで行ったり来たりしている。 あれを見ていると「狙撃」のほうが楽そうなのは分かった。 頭ではなく、別の、「本能」というか「恐怖」で分かった。 あれは、躊躇わない、覚悟を決めた、軍人の動きだった。 殺すのに耐えられない僕とは、大違い。 ―なんで?― そんな内面の懊悩を隠し、僕は聞いた。 クーは即座に答える。 =したいからです= がっくり、と気持ちだけで肩を落とす。 でも、これがいつものクーなんだ。 なんとなく、気が紛れた。 少し、憧れだったし。 僕は、心で―表情は動かせないので―笑顔を作って、 ―分かったよ、クー― 『そろそろ休憩時間になるわ。 準備は良い?』 涼風さんの明瞭な声が脳に響いた。 僕は頷いて、バズーカに手をかけた。 心は静かだ。 先ほどのクーの提案も少し関与しているようだ。 でも、まだ聞くことがある。 ―涼風さん― 『何?』 ―あの機体に、人は乗っていますか?― 僕の言葉を聞いて、涼風さんは大きく深呼吸し、低く、静かな声で言った。 『休憩時間中は、パイロットも休憩するわ。 分かるでしょ?』 ―分かりました。 ……補正のほう、お願いします― 『了解。 必ず、成功させるから、気を楽にしてね』 僕の指は、ゆっくりと、トリガーに伸びた。 そのまま、待機。 風が吹いた。 竹やぶが揺れる。 この風を感じることは今は出来ない。 でも。 少し経てば。 少し頑張れば。 クーと一緒に、風を感じられる。 不安も。 恐怖も。 全て飲み込んで。 僕の決意は、ここにあるんだ。 『!』 向こうから、息を飲む音。 『機体の停動を確認! さあ、思いっきり引いて!!』 涼風さんの叫び声と同時に、風が止んだ。 バズーカの砲口を妨げるものは、無くなった。 ―いっけぇっ!!― ズドオォン、と轟音を響かせるバズーカ。 ビリビリ、と痺れる腕と、竹。 凄まじい速度で飛んでいく砲弾。 数秒後。 爆炎と、黒煙が砲口の先で立ち上っているのが視認できた。 ―停動(ランアウト)― 研究所へ戻り、機体を停める。 心臓から、体の末端にかけて熱が伝わっていく。 拳を握り、広げ、再び握る。 動くのを確認して、コクピットを開ける。 リフトはすでにコクピットに隣接していた。 「お疲れ様。 無事、撃破は完了して、正規軍が占領したわ」 リフトに乗っていた涼風さんは、仁王立ちをして立っていた。 様になっている。 僕はリフトに脚をかけ、クーの手を引く。 僕の手を握ったクーは、そのまま軽い足取りでリフトへ降り立ち、正座。 正座? 思考がいったんビジーになる。 「さあ、ここへ頭を」 ぽんぽん、と膝を叩くクー。 下に居る作業員達から揶揄が聞こえる。 「部屋に戻ってからでもよくない?」 僕は苦笑いしながら言う。 涼風さんは、仁王立ちから微動だにせず、光を飲み込む黒いオーラを放っていた。 クーはまだぽんぽん、と膝を叩いて、 「善は急げ、ですよ」 僕は観念して首を振り、横になってクーの膝の上に頭を乗せた。 暖かい。 クーは僕の頭を撫で始めた。 僕は眼を閉じ、クーの為すがままにまかせた。 リフトはゆっくりと降りる。 降りるにつれ、びしびし、と塩の投擲が始まる。 男性、女性、関わらず。 降りきって、塩攻撃を受けながら数分待機していると、 「あなたたち? もうそろそろ降りないと、」 涼風さんの声。 僕は眼を開け、涼風さんを見ると。 一mはあろうか、という巨大な塩の袋を抱えて、にこやかな笑顔で、 「これをかけるわよ?」 周りを見渡すと、誰も彼もが晴れやかな微笑をたたえていた。 同じような塩の袋を、近くにスタンバイさせて。 僕とクーが即座にその場を逃げ出したのは、言うまでも無い。
次の奪還先は工場。 先日の作戦によって、警備はより厳しくなった。 そこで、巧とクーは、涼風曰く「戦争の常套手段」で破壊するらしい。 「戦争の常套手段」とは? 次回Mechanical Fairy 破
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