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何か、騒がしい。 朝からなんだろう。 ピリリリリ、ピリリリリ、と今では古い着信音が鳴り響いていた。 布団から手を伸ばし、取る。 「もしもぉし?」 眠いので間延びした、なんとも情けない声だ。 『もしもし? 巧くんか?』 「そうですけど?」 『今すぐこっちへ来てくれ』 「……はい、分かりました」 ぴっ、と電源を切って、布団から起き上がり背伸びをする。 急いでたな、チーフ。 寝惚け半分の眼をこすりながら、僕は顔を洗いに洗面所へゆっくりと歩く。 「おはようございます、巧」 「あぁ、おはよう」 クーと軽めの挨拶をしてから、僕は支度をする。 また、なんかのテストだ。 すぐに帰ってこれる、と踏んだ僕は私服に着替え、荷物もそこそこにまとめた。 「今日はテストですか?」 「恐らくね。 ほら、早く支度支度」 「分かりました」 このとき、僕はまだ、事態の深刻さに気付かなかった。 そして、あと数時間もしないうちに、消える命があることも。
Mechanical Fairy ver,3.01 導
倉庫の中には、チーフが一人たたずんでいた。 P−Zeusを見ながら、悲しげな表情を浮かべていた。 声をかけるか迷った。 あまりにも、触れにくかった。 僕が機会をうかがっていると、 「おはようございます、チーフ」 と、クーが空気を読まず挨拶し、深々と礼をする。 ちょっとはタイミングを読もうよ、クー。 そこでチーフは初めて僕たちの存在に気付いたようだ。 明らかに動揺しながら、身体をぎくしゃくさせながら会釈した。 「あ、お、おはよう、巧くん、C00LNP9。 とりあえず、乗ってくれ」 ちょっとは動揺していたが、朝の声とは違い、冷静な声だった。 右手には資料をまとめた 僕とクーは、促されるままにP−VALKYRIEに搭乗する。 コクピットに乗り、クーとあいコンタクトを交わす。 ―起動(ラン)― 久しぶりの、この感覚。 身体が大きくなったかのような錯覚、でも血が通っていない冷たい感覚。 『よーし、今日はセンサーのテストだ』 チーフの明朗な声が倉庫に響く。 『視界の右下あたりにセンサーがあるな?』 ―見えます― チーフは手にした資料をぱらぱらとめくりながら説明を始めた。 『赤は熱源動体、君の乗ってる機体とかな。 黄色は熱源非動体、つまり研究施設とかだ』 ―えぇ。 緑は?― 『緑は任意で登録できる。 基本的には敵意を持たない識別した熱源動体として使ってくれ』 ―了解― チーフはくいっ、とメガネをあげた。 『テスト内容は、この倉庫から近くの研究所へ飛んでもらう』 えぇ、わかりました、と思わず言いかけた。 あれ? ちょっと待って。 ―このテストは、センサーのテストじゃないんですか?― 『飛んでるうちにセンサーが補足した熱源動体や熱源非動体を記録し、誤作動が無いかの確認だ』 飛ぶ道筋に変電所など、さまざまな高エネルギーが観測される場所があるらしい。 それらの数は事前に調べられ、センサーの記録と照らしあわされる。 その確認だ、とチーフは説明した。 ―なるほど― 『では、早速行ってくれ』 言い終わると、チーフは倉庫の扉を開けた。 朝日が差し込む。正直、まぶしい。 『着いたら向こうの指示に従ってくれ。 では、行って来い』 ―はい― 僕は、背中に埋め込まれた小型の推進器にエネルギーを集中させた。 ―では、行ってきます― 飛び上がる。地に脚がついていないのは、少し不安だ。 チーフが、大きく手を振っていた。 その時僕は、「頑張ってこいよ」ぐらいの意図にしか思っていなかった。 目的の研究所の方向にマーカーが表示された。 とても分かりやすい。飛んでる方向も、NやSなどで表示されている。 =巧、巧?= クーが呼びかけてくる。 飛んでいる方向を気にしながら、答える。 ―どうしたの?― =チーフ、大丈夫でしょうか?= 眼下に見える町並みを悠然と見ながら、僕は答える。 ―どうして?― 少し、クーは言うのをためらっていた。 =なんとなく、です= なんとなく、か。 確かに、今日のチーフはいつもと少し違っていた気がする。 でも、それを確かめる術は無い。 僕は目標に向かって飛んでいた。 すると、センサーに熱源動体が五つ、僕が飛び立った施設に向かっていた。 推進器を真下へ向け、進むのを中断する。 振り返ると、黒い機体が五機、施設へと向かっていた。 なんとなく、僕の機体に似ているようだった。 また一つ、赤いマーカーが現れた。今度は施設からだ。 僕の眼に、遠目ながらも良く分かる、黄色と赤の装飾の機体が映った。 見まがうことはなかった。 どう見ても、P−Zeusだった。 でも、あれに乗れる人は? ―これも、テストのうち?― 思わず呟く。 『そんなわけ、無い』 少し雑音の入った通信の音が聞こえた。 女の人の声で、ひどく動揺している。 =どういうことですか?= クーが質問した。冷静を装っているが、不安がある声だった。 通信の向こうから、僅かながらすすり泣きが聞こえた。 『昨日の深夜、タレコミがあったの』 ……それと、これと何の関係が? 僕の脳裏に、不安がよぎる。 『……軍が、クーデターを起こす、ってね』 以前、チーフは言っていた。 (兵器にとって重要なことは、『誰でも使える』ことだ) と。 そして、数日前に、チーフは言っていた。 (量産型を軍に納めたから、これからは楽になるよ) ……まさか。 あまりに酷いシナリオが、僕の頭で出来上がる。 クーも同じ展開を思い描いたらしい。 =ということは? 施設を襲った、あの黒い機体は、もしかして?= 『そうよ、私達が納めた、軍の機体よ。 数も同じ、五機』 僕は呆然と、空中に静止したまま、黒達と赤黄の戦闘を見ていた。 ちょっとまって。 ―あの、P−Zeusに乗っているのは……?― お願いだ、あの人以外で、あってくれ。 僕はそう願っていた。 現実は、僕の思っている以上に、悲しいものだった。 『……君達が「チーフ」と呼んで慕っていた、生田 導よ』 推進器の方向を変えた。 考えるよりも、身体が動いた。 センサーに、緑の登録をした。あの、全知全能の神の名を冠する機体を。 『な、何をするの!?』 通信の向こうから、明らかな狼狽の声が聞こえた。 ―助けに、行きます― 僕は方向を転換し、施設の方へ向かおうとした。 『ダメよ! 君達が囚われたら、軍は君達のデータを採取し量産に入るわ! だから、逃げて!』 ―でも、チーフが!!― 『私だって、助けたい!!』 悲痛な声が、響いた。 『わたし、だって、たす、けたい……でも、あのひと、逃げろ、って……!!』 通信の向こうのすすり泣きの幾つかが、大泣きに変わっていた。 沈黙が、その場を支配していた。 =……行きましょう、巧= 静寂を切り裂いた、綺麗な声。 ―でも!― =いくら相手は量産型、といっても、二機と五機では分が悪いです= クーは、こんなときでも冷静だった。 取り乱していた僕を、なだめるように、慎重に言葉を選んでいる感じがする。 =……行きましょう、巧= 僕は目的の方向へ向きなおし、推進器を上げ、進み始めた直後だった。 視界の右下で、緑のマーカーが赤のマーカーを二つ消した。 そして、残りの三つの赤のマーカーが緑のマーカーを囲み、 消えた。 同時に、施設の方角から轟音が聞こえた。爆発の音が脳裏に響いていた。
目的の施設へ到着した巧とクー。 山に囲まれ、隠されるように作られた施設では、通信先の女の人が出迎えた。 そして、巧とクーは遺されたメッセージを見る。 短いが、重みのある、言葉。 巧とクーは、これからどうするのか? 次回、Mechanical Fairy「悲戦」
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