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「えと、これは、一体?」 朝学校に来た僕の眼に映ったのは、女子の机の上にあるブルマだった。 この学校は、確かハーフパンツでは……? なぜ? なぜなんだ? 教えてせんせいさーん。 「それはな、校長の強権発動のせいさ」 なんでも、校長が『どうしてもブルマがいい』と言ったのだそうだ。 ……この学校がどうなるのか、心配です。 クーはブルマを見て、「これは何?」と訊いてきた。 僕は一応答えるが、どうも納得がいかない様子。 「チーフからされた説明では、違ったのに」 と、やっぱり校長の強権発動に対して反発しているようだ。 周りの女子達は口々に文句を言う。担任にぐちぐち言う人も大勢だ。 男子は男子で、鼻血を噴出する者続出。そこまで欲にかられたか。 僕は、ふぅ、とため息を吐いて席に座る。 「や、やめろ、やめるんだ玲ッ!」 「発情するー? 襲いたくなるー?」 「しねーしならねーよ! ちくしょぉーッ!」 廊下から騒がしい声が聞こえるなあ。 と、右を見ると体操服姿で全力疾走する羽里先輩と空深先輩の姿が。 どうやら、先輩達のクラスは一時間目から体育のようだ。 羽里先輩は必死の形相で走っている。対する空深先輩は余裕綽々の表情で走っている。 ……うん、あの二人は元気だなあ。
Mechanical Fairy ver.2,02 密着
隊列を組んで授業が始まる前のジョギングをする。 男子が前、女子が後ろだ。基本的に出席番号順である。 掛け声もちゃんと出さないと、先生から怒られる。 「ほぉらぁ、ちゃんと声ださんかーっ」 芯のある大きな、高い声が校庭に響く。 竹刀を持った、黒のショートカットで、赤のジャージ姿の女性の姿が眼に入る。 僕らの体育の担当は女性の先生だが、かなり厳しい。 大きな声を出さなければ、何周でも走らされる。 最高記録はなんと、三十九周。三十五分近く走らされたそうだ。 いくらなんでもやりすぎじゃないかなあ。 「よーし、準備運動終了ーっ!」 先生の号令で皆が隊形を整え、先生の前に整列する。 「気をつけーっ! 礼ーっ!」 「おねがいしまーすっ!!」 皆が一斉に頭を下げる。「一斉」でなければ、怒号が飛ぶのだ。 結構、厳しいなあ。他の授業はそうでもないのに。どうも慣れない。 「よし、今日はバレーだな」 先生は竹刀で地面を一回突く。どんっ、と重い響きが校庭にこだまする。 「では、男子と女子で二コートづつ使え。 生田は……神崎と組んでトス練習。 では練習開始」 先生はもう一回、竹刀で突いた。ずどん、と更に重い響きが鳴った。皆は即座に作業へ入った。 「あぁ、終わった」 バレーの網を片付けながら僕は独り言を呟く。 トスばかりの練習は面白くない。あぁ、僕に運動神経があればなあ。 僕はさほど運動神経はよくない。中の下、と言ったあたりだ。 「ねえ、巧?」 「おぉわぁぁっ!?」 「どうしたんですか?」 「あ、いやいや。 なんでもないよ。 で、何?」 クーは周りをチラチラ見ながら僕に訊いてきた。 「なんだか、男の方の眼が私達のほうを向きっぱなしな気がするんですが」 クーの合図で、女子達が右を見た。右の男子達が真っ赤になった。 クーの合図で、女子達が左を見た。左の男子達が赤の花を咲かせた。 「どういうことですか?」 「お察し下さい」 「……そうですか」 クーは、こくり、と一回頷いた。最初から分かっていたようだ。 友人いわく『三種の神器』のブルマを履いた女子達がピョンピョン飛び跳ねているのだ。 揺れるものも揺れる。視線が釘付けになるのも当然だろう。 すでに興奮は最高潮らしい。……僕はもう、その系列の状況は慣れたからいいけど。 ツインテールの女子がパタパタとこちらへ走ってくる。そして一言。 「巧くんはどーして真っ赤にならないの?」 「慣れた」 ぴくっ、と彼女は反応する。小悪魔の笑みを浮かべ、 「慣れたぁ? ……これは尋問ものね、ワトソンくん」 「よねー」 なんでこうなる。 体育が終わって、僕達は教室へ戻る。 女子達は僕達の教室で、男子達は更衣室で着替える事になっている。 が。 「なんでクーは腕にしがみついてるの?」 「問題ないです」 「なにが?」 「私的には全然問題ないです」 「話きいてる?」 「むしろ願ったり叶ったりです」 「ちょっと?」 クーはなんだかのぼせてるみたいだ。思考力低下中みたいだ。 僕はどうにかしてクーを教室に押し返した。ぶー、と露骨に嫌そうな顔をされた。 「はあー」 僕は上を脱いで、下着を着る。 すでに他の男子達は着替え終わって、皆教室へ戻っていく。 「お前、サイテーだな」 「この女たらしー」 「このバカタレがー」 「このいんらんー」 ……とまあ、口々に色々すき放題言ってくれるわけだけど。あーうれしくないなー。 と考えながらワイシャツに袖を通す。ボタンを一つ一つ留めていると、 「?」 物音がした。 覗き、はないよね。 と僕は考えながら、ハーフパンツを脱いだ。 がたんっ。 ……どうも、ドアの傍に誰か居るみたいだ。 僕が視線を移すと、さっ、と「何者か」は僕の見えない位置へ。 僕はズボンを履いて、ベルトを締めながら音を立てないようにドアへ近づく。 「わあっ」 「ひゃっ!?」 「……きーちゃったぁきーちゃったぁ。 クーの恥ずかしい声きーちゃったぁ」 やっぱりクーだった。 「で、何してるのさ?」 「うぅ。 傍に居たいんです」 哀切な瞳だった。 僕とクーしか居ない。ここが男子更衣室でなければいい雰囲気なんだろうなあ。 「家でずっと傍にいられるじゃないか?」 「でも」 「ほら、傍に居られない時が長ければ長いほど、傍に居られるときの幸せは大きくならない?」 「それは遠距離にしか当てはまらないと思いますけど?」 「ぐ」 うぅ、なんで僕はこう、頭の回転が少ないんだろう。もっと回れ回れ。 そう悩んでいる間も、クーは得意の上目遣いでこちらを見る。凝視する。 いやー。やめてー。負けるー。 「……分かったよ。 休み時間に、腕を組むだけね」 「はいっ」 それから、僕は地獄を味わう事になる。 「へあー」 奇声を上げながら僕はソファに倒れる。 「ふふふ、巧、ありがとう」 クーはニコニコ、ツヤツヤしながら僕に言った。生気を僕から吸い取ってるみたいだ。 三時間目の体育から、僕とクーはずっと腕を組んで、密着していた。 周りの男子の視線が冷たく、女子の視線は好奇心そのものだった。 毎時間、全ての学年の全てのクラスから野次馬が湧いて、精神は磨り減っていったのだ。 あぁ、安易に物事を決めるべきじゃないなあ。 「うー、疲れたー」 「今日は私がごはん、作りますね」 「うん、お願いするよー」 僕はベッドにうつぶせで寝転がりながら、言った。 あー、布団に寝たら気持ちよく寝れるんだろうなー。と思っていたとき。 ヴルルルルル。ヴルルルルル。 携帯のバイブレーションが作動した。僕はうつぶせになったまま、手を伸ばして取る。 「もしもしー?」 『チーフだぞー。 ……随分とお疲れのようだな』 「なんですか? また新たなテスト?」 『いや、量産型を軍に納めたから、これからは楽になるよ、って話を』 「それだけですか?」 『おぅ』 「じゃ、きりますよー」 『おぅ』 ぶつっ。 「なんだったんですか?」 「ん? テスト少なくなって楽になるってさー」 「そうですか」 クーは台所で袖をまくり、「やりますか」と意気込んでいた。 数分も経たないうちに、紫色の煙が立ち上り始めた。 僕は唖然として、台所を見ていた。クーは何も喋らず、ただ単に鍋を見ていた。 僕はゆっくりと起き上がり、台所へ歩き、コンロにかけられた鍋を見た。 紫だった。パステルカラーの紫だった。 何を入れればこんな色が出るんだろう? 「ねえ、クー? 何入れたの?」 「え、えと、じゃがいもと、にんじんと、たまねぎと、お肉と……」 本当にそれを入れたの? というほどに綺麗な紫色だ。ペンキとして、塗装できるな、これは。 「うーん、これは再起不能だね」 「そうですか……残念です」 珍しく、しゅん、とクーは肩を落とす。僕は一回息を吐き、 「仕方ない、僕と一緒に作ろう?」 クーの眼が一瞬にして輝きを取り戻した。 「はいっ」 それから、僕とクーは一緒にシチューを作り始めた。 クーに野菜の皮のむき方から、切り方、炒め方など、一通りを教える。 「猫の手みたいに、手を添えるんだよ」 「こうですか?」 「そうそう」 とん、とん、とん。 ぎこちないながらも、上手く出来ているみたいだ。 「できたーっ!」 「できました!」 二人で万歳をしながら、おいしそうに出来上がったシチューを見た。 あたたかい湯気を出しながら、コトコトと煮えるシチュー。 「ごはんはどう?」 クーに言うと、クーは炊飯器の蓋を開ける。 ほかほかの湯気と、ほのかな米の香りがした。 「だいじょうぶです」 と、クーはこちらにウインクした。よし、今日のごはんは完成。 ごはんをお椀によそい、皿にシチューをよそう。 テーブルに持っていって、野菜サラダとお茶、コップを持っていく。 二人向かい合って席に座り、手を合わせて、 「「いただきまーすっ」」 クーがまず、シチューをスプーンですくい、ぱくり。 もぐもぐ、と口を動かすクーを見て、僕は訊いてみた。 「美味しい?」 クーはにこっ、と微笑んだ。答えとしては申し分ない。 僕も一口、シチューを食べる。うん、美味しい。野菜も肉も美味しい。 クーはシチューを二口ぐらい食べた後、しゃくしゃく、とレタスをほおばる。 僕はシチューに集中する。食べてはお茶を飲み、食べてはお茶を飲み、の繰り返し。 最近では少ない、平和な時間が流れていた。 だが。 「なんで家でも腕組んでるの?」 「傍に居たいからです」 ソファに二人で座っている。ただでさえ密着しているのに腕組みとは。 でも、悪い気分はしないので放置する。クーは嬉しいようだし、いいかな。 「お昼はごめんなさい」 「なんで?」 「ちょっと、やりすぎたかな、って」 腕を組みながら、ちょっと頭を伏せるクー。 なんでこう、後々で謝るかなあ。 僕はクーの頭を撫でる。 「大丈夫だって、段々なれてきたから」 「そうですか……?」 「うん。 でも、必要以上はやめてね」 「はいっ」 僕はしばらく、クーの頭を撫でていた。クーは僕に身体を預けていた。 数十分経った頃。 ピンポーン。 インターホンが鳴った。僕は玄関に出る。 「はい?」 「あ、これお届けものですー」 僕の視界に、塩の袋が山積みにされた光景が飛び込んできた。 「チーフさんから、『このやろう』とのことです。 では」 宅配便の人は、深々と礼をしてから去っていった。 「あーあ、凄い量ですね」 「あンのチーフめえええええぇぇぇぇぇ!」
大量の塩を送られた巧。その処理は友人に贈るらしいぞ。 さてさて、数日経って、徐々にクーも学校に慣れてくる。 しかし、次の関門は家庭科だ! クーの料理下手は巧がよく知っている! このままでは犠牲者もでかねない!! さあ、どうする巧!? 次回Mechanical Fairy「料理」
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