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『では、今日は歩くテストだ』 倉庫内。上部にある窓から日光が差し込み、結構明るい。 チーフがマイクを使って僕にテスト内容を説明する。 『まず、君の前方の扉を開ける』 チーフが指を指す。僕は視線を前へと向ける。 前には、巨大な扉があった。チーフは話を続ける。 『外に出たら、街を模したセットがある。そこを5時間歩き続けてくれ』 ―五時間?― 抑揚はあるが、息遣いの聞こえない合成音声が僕の疑問を発する。 『うむ、君のような一般人と、覚醒後間もない素体の耐久テストも兼ねている』 ―分かりました― 僕の相槌を聞くと、チーフは扉の方へ歩みを進めた。 扉の横の操作盤に、開放キーを打ち込む。カタカタ、という音が倉庫に響く。 一分も経たないうちに扉が開き始める。横に、ズズズズ、とスライドしていく。 開ききると、外には繁華街といった町並みが広がっていた。 模した、というより、そのまま移転した、という程精密だ。 『道を歩いてくれ。建物をブッ壊さなければ何をしてもいいから。ではグッドラック』 チーフは僕に指示を出し、そのまま大きく手を振った。 僕は歩き出す。ズ、ズ、と足を踏み出すたびに振動が響いた。
Mechanical Fairy ver,1.03 想い
『はい、5時間過ぎたな。お疲れ〜』 チーフの持った拡声器から合図が聞こえる。 僕はまっすぐに倉庫へと戻る。倉庫へ入ると、扉が引きずる音を出しながら閉まった。 ―停動(ランアウト)― 視界が僕自身のものに戻る。ヘルメットを外し、ふぅー、と息を吐く。 左のクーを見る。眼を閉じ、寝息をたてているクーがいた。5時間もすればさすがに疲れるのだろう。 コクピットが開く。リフトが上がり、チーフが仁王立ちしていた。 僕はリフトに乗る。くらっ、と立ちくらみがした。僕もかなり疲れているみたいだ。 チーフは前かがみになり、クーをコクピットから引きずり出そうとしていた。 「巧くん、頼むからこの眠れるお姫様を抱っこしてくれ」 「……僕が?」 「そうだ」 「……分かりました」 肉体的には疲れていないので、なんなくお姫様抱っこが出来た。 軽い。華奢なのは見て取れるのだが、それでもかなり軽い。 ククク、と笑い声が聞こえた。はっとしてチーフを見た。 「いやいや、すまんすまん。青春だなー、と思ってな」 「な、な、な、何をっ!?」 動揺し、何を言ってるか分からないがとりあえず反応する。僕の顔は熱い。 腕の中のクーが動いた。クーの細い手が眠そうな眼をこする。 「おはようございます」 クーの第一声。状況を把握しても、この調子は変わらないようだ。 チーフは思いっきり笑い出した。大声を出し、あっはっは、と声を上げた。 「……チーフー?」 「あっは、いや、っは!すま、はは……ごほん」 チーフはわざとらしく、大きく咳払いをする。 「C00LNP9は検査とメンテナンスを。巧君は、部屋に行って休め」 「はい、分かりました」 「了解」 クーはそのまま、スタスタと奥の扉へと向かっていった。 僕はクーの後姿をじっと見ていた。見ていたかった。 僅かな接点。会える極僅かな時間。それを少しでも享受したかった。 チーフは僕を見て、微笑んでから倉庫を去った。 僕はクーが出て行った扉を数分眺め、自分の部屋へ戻る。 部屋へ戻る通路で、僕はたまに壁に寄りかかった。 足がガクガクした。肉体的な、はっている感じはしない。神経が命令をうまく伝達しない。 まっすぐ歩こうとしても、ふら、と右へ左へ蛇行してしまう。 でも、僕は足に力を入れ、誤った命令を力で屈服させる。 僕はゆっくり歩いていった。次の、テスト、いや、クーと会える時を楽しみにしながら。 部屋へ着き、僕はまずシャワーを浴びる事にした。 脱衣所に替えの服を置いた。服を脱ぎ、浴室の中へ入る。 キュッ、と蛇口を捻ると、熱いシャワーがすぐに僕の身体を濡らした。 全身にかかるようにシャワーを身体に浴びせる。 疲れが湯に溶け、流れるようで気持ちが良い。爽やかな気分になる。 シャワーを浴び終え、タオルを首にかけて上半身裸で脱衣所から出る。 ベッドの上の、ワンピース姿のクーが僕の眼に飛び込んできた。 「……何してるの?」 「座ってます」 「いや、そーじゃなくて」 僕は頭をタオルで拭きながら、緑茶を淹れる。 「熱い緑茶飲む?」 クーは首を横に振った。少し残念な気分になりながらも、僕は湯飲みに緑茶を注いだ。 湯気が立ち上る湯飲みを持ち、ベッドの傍の椅子に座る。 一口飲む。熱くて少ししか飲めないが、清々しい苦味が口に広がる。 机の上に湯飲みを置いて、一呼吸置く。クーはずっと僕の行動を見ていた。 「で、何しにきたの?」 「もちろん、親睦を図るためです」 「具体的にどんな?」 「例えば、合体です」 「早くない?」 「親睦を図るために、他に何をすればいいんですか?」 僕は一から十まで語った。『恋愛』というものを。 クーは僕の語りを眉一つ動かさずに静かに聞いていた。 「と、言うわけ。分かった?」 「はい、最初から最後まで」 僕は安心のため息を吐く。気づくと、僕もクーもベッドの上に座って、肩が触れ合っていた。 「ところで」 「ん?何?」 「『きす』とは具体的にどういう行為なんですか?」 「んと、唇と唇を重ねる、ってことだよ」 「そうですか」 クーは一回頷くと、僕の顔をつかんだ。ぐいっ、と僕の顔をクーの顔に近づける。 腕は細いのに、力は強い。僕は何かを考える前に、柔らかい感触に酔った。 数秒間、二人とも動かなかった。感触を味わっているようだった。 ゆっくりと、クーの手が僕の顔から離れる。僕は少し距離を置いた。 「これが『きす』ですか?」 クーは真顔で聞いてくる。僕の顔は真っ赤になっている。 「う、うん。そうだよ」 「では、私達は『こいびと』ですか?」 「……うん、既成事実によってね」 クーの表情は変わらない。でも、ほのかに紅くなっているように見えた。 「不思議な気持ちです」 「どういう気持ち?」 「こういう気持ちです」 すぐにクーは僕の上にのしかかってきた。 少しふくらんだ二つの隆起が僕に当たる。クーの息は少し荒い。そして熱い。 「巧を見てると、気持ちが、なんていえばいいのでしょうか、高揚? するんです」 「……あはは、そういうこと」 僕は笑った。クーは僕の上に乗りながらわずかに首をかしげた。 「どういうことですか?」 「クーは、僕のことが好きなんだ」 クーは、首をより一層かしげた。 「……『すき』……?」 「うん。多分ね」 少し頷きながら答える。自意識過剰かもしれない。でも、直感した。 僕はクーの手を、自分の左胸に押し当てた。拍動が速く、音が聞こえてきそうだ。 「ほら、僕の心臓高鳴ってるでしょ?」 クーは大きく、はっきりと頷いた。 「はい」 「『好き』って想うと、速くなるんだ」 今度はクーの手を、クーの左胸に当てた。クーは一瞬身体をびくっ、とさせた。 「今、クーの心臓はどうなってる?」 「……速い、です。巧と同じくらい」 クーの答えを聞き、僕は微笑んだ。やっぱり。 「ね?クーも、僕も、お互いが『好き』なんだよ」 「この気持ちが、『すき』……」 クーは起き上がり、自分の胸に手を当てた。眼を閉じ、自分の心臓の音に聞き入った。 僕は上半身を起こし、あぐらをかきながらクーを見ていた。顔は、自然とほころんでいた。 数分経った。クーは眼を開け、僕の方を向いて、ゆっくりと言った。 「……巧、私は、巧がすきです」 僕はクーに近づき、抱きついた。クーの身体は、いつもより熱くなっていた。 クーの耳に近づいて、僕はそっと囁いた。 「僕もだよ。大好きだ、クー」
名実共に恋人になった巧とクー。 次のテストは走ること。そして、実戦じみた射撃訓練。 そこで起こるアクシデント。どうする、巧!? 次回、Mechanical Fairy「暴走」
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