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「ちょっと待ってろ。あとちょっとで出来る。」 ルーズリーフにシャープペン、赤、青、緑のペンで色々と書く俺。 それを早く、早く、と急かす皆。なんだかテカテカと輝いている気がする。 今、俺はレシピを書いている。とりあえず、ミニ食堂ということで、定番メニューのみ。 色々と応用がきくご飯、味噌汁といった基本的な料理の他に、焼きそば、たこ焼き、焼鮭など。 デザート類は女子軍がどうにかしてくれるらしいので、放っておくことにする。 「ほら、これが酢豚のレシピだ。」 ぴらっ、と一枚のルーズリーフを渡す。 男子はレシピを見て、「おぉー」と感嘆の声を上げる。 次は何がいいかな、と考えていると向こうから「きゃー」と嬌声が上がる。 何事か、と思ってみてみると、玲の周りに人だかりが。 どうやら、主に玲が作っている看板の出来に驚いているらしい。 木を模した看板。形も「木」といった良い意味で均整のとれていない形。 土台は木目。薄い茶色、といったところ。黒で「1−3 お食事処」と綺麗な字で書かれている。 そちらをちらちらと気にしながら新しいレシピの作成に取り掛かる。 黒のマジックで「カルボナーラ」と書き、下に赤で「材料」と書いてからつらつらと順序無く書く。大抵は必要な順番だが。 次は青で「作り方」と書き、黒で工程を書く。ポイントは緑で。 「ほら、次はカルボナーラだ。ミートソースは既に書いたから。パスタの茹で方ぐらいは分かるよな?」 周りに尋ねる。が、皆は女子軍のほうを見ていて、俺の質問に気付かない。 ため息をつき、机の横にあるレシピの山に上乗せし、別のレシピを書き始める。そうやって、日が経っていった。 文化祭一週間前。やたらと風の強い日だった。 学校の目印である看板を分担してつくり、掲げる事になっていた。 俺らのクラスは正門の看板。正門は5mほどの高さ。脚立ではとどかない。 なので、はしごに登ってつける事になる。書の巧い女子に題目を書いてもらい、看板に貼り付け。 周りにペンで装飾を施し、正門につけることにする。 女子には出来なさそうなので、俺ともう一人の男子が上って正門に取り付ける。 釘で打っていい、との許可が出たので、腰に釘の入った箱をいれ、右手にハンマー、左手に看板を持つ。 俺は正門の右側から、相方は左側から上る。横幅は大体20mほど。 中心から5m程の距離にはしごをたてかける。左右ひとつづつ。一歩一歩上っていく。 看板を取り付ける位置に紐で固定。左手で釘を取り、右手のハンマーで打つ。 打ちにくい。今もっているハンマーは四角い。下に居る女子に声をかける。 「なー、下から丸いなぐり、いや、ハンマーとってくれねーか?」 女子ははしごの下に散乱していた工具の類からハンマーを取り、下から上へと投げる。 俺は手を下へ伸ばし、ぎりぎりでキャッチ。四角いハンマーは下に人が居ないことを確認しつつ、落とす。 「ゴシカァン」と不思議な音を床に当たるハンマー。気にしないでおく。 作業再開。ひとつ、またひとつと打ち付けていく俺。相方は既に終わり、はしごから降りていた。 少し離れた場所から心配そうに見守る玲。俺はそちらを見て、ニヤリと笑った。その時。 風が吹いた。かなり強い。はしごをたてかけていた、反対側から。 はしごは後ろへと押され、段々と地面から直角、そして、60度、と後ろへ倒れていく。 5mの高さから倒れていく俺。かなり速いスピードで落ちる。 左手をとっさに出し、地面へ頭が直接ぶつかるのを避けようとする。 だが、衝撃は俺の予想以上に強かった。左手だけではまともに支えきれず、地面に身体を打ち付ける。 頭に激痛が走り、左手からは鈍痛が断続的に続いた。 う、とうめきながら左手で起き上がろうとするが、力が入らない。どうやら、筋肉が切れたようだ。 身体を横に向け、右手で起き上がる。視界の端に、赤いものが見えた。 感覚のない左手で頭を押さえ、手の平を見てみる。赤い、ドロっとした液体が手についていた。 ドクドク、と流れる鮮血。おそらく、頭を打ったときに切ったのだろう。 手が段々と冷めていき、視界がぼやける。周りからは悲鳴がこだましていた。 「項貴っ!?」 聞きなれない、澄んだ声。誰もがそちらを向いた。 賭けてくる玲。俺の傍にしゃがみ、ハンカチで頭を押さえる。 いつもの無表情とはうって変わって、驚嘆、不安が表情を支配していた。 自分が出せなかった声が出せていることにも、気付いていない。それほどショックだったのだろう。 「ねえ、大丈夫?大丈夫!?」 一心不乱に俺に声をかける玲。かすんだ視界で玲の顔を見上げる俺。 額に涙が伝わり、声を上げ続ける。俺は喉から声を絞りだす。 「お前、声でてるじゃねーか。」 限界を超えながら声を出し、俺はかすかに口元をゆがめる。 だが、玲は俺の言ったことが耳に入っていないようだ。 俺を見ながら「死なないで」「救急車」と叫び続ける。 身体を支えている右手に流れ出た鮮血が浸る。妙に温かい。 感覚が脳に伝わった途端、俺の右手は力を失い、どさっ、と地面に倒れこむ。 更に声を張り上げる玲。俺は霞んでいく視線を横に向け、身体を投げ出しながら意識を失った。
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