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クラスマッチが終わると、すぐに文化祭が来る。 クラス毎に一つづつ出し物をするため、計画や準備、もろもろが必要だ。 俺らのクラスは会議が難航。 「お化け屋敷やろうぜっ!」 という男子。他の男子が拳を握り、ウオオオォォォッと拳を天に突き上げる。 「いや、劇やりましょうよっ!」 という女子。女子は肩を組み、左右に揺れながら「そうよ」の大合唱。 「レベル的には変わらない気がする。」 という俺。そして頷く玲。要は中立だ。 結局、「間をとってミニ食堂にしよう」という事に。どこが「間」なのか分からない。 準備に取り掛かる。まずは計画。何を売るか、など具体的なものから。 焼きそば、たこ焼き、といった定番メニューから、パフェ、ソフトクリームなど手の込んだものまで。 そして全部を許諾する担任。なんで保健所の許可も貰ってないのに許諾するんだ、このド低脳がァーッ!! と、考えているとぴらっと「全部許可」と書かれた保健所の許可証を担任は提示。 唖然とする俺。歓喜に沸く群衆たち。口はおっとりだがなんと手の早い。ちょっと待てよ。 「その前に、どうやったら『全部許可』なんて出るんだ?中身を見てもないのに。」 とつぶやくと、担任は口の前に手をやり、しーっ、とジェスチャー。 吐き気を催したが、なんとか我慢。要は「ねt(省略)」や「ぎz(省略)」なのか。 食品だけじゃ面白くない(らしい)ので、射的、おみくじ、など祭りに関係あるものすべてごちゃまぜ。 膨れ上がって何がメインなのか分からなくなってくる。接客する女子はメイド服だ、と断固主張する男子が多数。 「で、項貴くんはどうなの?」 話を振られる。俺は頭をかきながら言う。 「とりあえず、他人から『アチャー』って視線だけは貰いたくないな。」 男子勢は俺の意図を読み取り、敵意の視線。なぜか「ガルルル」と聞こえてくる。 女子勢も俺の意図を読み取り、賞賛の視線。どうやら、女子達の意見と俺の意見は近いらしい。 で、多数決によりメイド服は却下。ウェイトレス姿、という妥協案でまとまった。 早速買い出しに移る。食品類はまだ必要ないから、他の衣類や装飾品の類を買いにいく。 女子達は布を、男子達は装飾品を物色。どうやらウェイトレスの衣装は一から作るらしい。 全ての女子の眼が燃えている。やってやるわよー、はいだらー、という声が聞こえてくる。 男子達は男子達で、オーラが出ている。メイドがダメなら、装飾品で雰囲気を、という考えのようだ。 俺はスプーンやフォークなど、食器類に眼をやる。 ミニ、とはいえ、かなり料理数も多く、家庭科室にある食器では物足りない。 銀製で鳥の紋様が刻まれたスプーンを手に取り、じっくりと観察。重さを確かめもする。 セットの値段を見てみる。一つのセットにスプーンとフォーク、コップが各30入って10万円。 高いなあ。さすがにこれはクラス費からは出せないだろう。と思ってみていると、 「7割は出せるよ。」 と、後ろから財政担当の女子がキラリとメガネを光らせ言う。 俺は少し考えて、セットの箱を取りながら返答する。 「文化祭で使った後は、コレ貰っていいか?」 再びメガネが輝き、電卓を懐から取り出す。何か計算をしているようだ。 計算し終わり、三度メガネに光が反射。彼女は告げる。 「貰ってもいいよ。」 俺は心の中でガッツポーズ。財布を確認すると、4万と小銭が少し。 一週間ほど極貧生活を送る羽目に陥るが、それでもこの機会を逃すわけにはいかない。 「じゃあ、俺が3万払えばいいんだな?」 期待を込めて言う。彼女はニヤニヤしながら答える。 「えぇ、クラス費のほうは大丈夫だから。」 俺は実際にガッツポーズをし、「よっしゃあっ」と小さくつぶやいた。 満面の笑みを浮かべながら学校へ戻る道を歩く俺。俺の腕にしがみつく玲。 俺の手には食器のセット。あとでこれが俺のものになると思うとかなり良い気分だ。 玲は俺の腕を握るだけでなく、段々と密着し始める。柔らかい感触が腕に伝わる。 周りはもう既に普通のことだと思い、華麗にスルー。ただ、女子達の一部ではまだ再燃しているようだが。 既に寒さで紅くなっている俺の顔は、もう赤くならないが、身体は熱を帯び始める。 この状況を打開するため、話題を切り替える。元々疑問に思っていたことだ。 「なあ、どうやったら声は再び出るようになるんだ?」 玲は驚いてこちらを凝視。俺は頭をかき、視線をそらしながら言う。 「いや、玲の声を聞いてみたいな、と。」 周囲は会話に気付いていないようだ。他愛もない会話をしている。 腕を離す玲。肩が密着してはいるが。手で伝える。 −トラウマを乗り越えるか、それを越えるショックがあればいいらしいよ。− 納得。なるほど、要は『トラウマを無くす』か『どうでもよくなればいい』のか。 俺は笑いながら冗談めかして言う。 「例えば、俺が重傷負ったりとか?」 玲は即座にこちらを見、少し怒ったような手振りをする。 −そうだけど、不吉な事いわないで。− 周りは気付かない。皆、自分の会話に集中している。 交差点に到着。信号は赤。立ち止まり、玲は俺の腕に再びしがみつく。こんどは不安からのようだ。 俺は玲を見ながら、再び笑いながら言う。 「悪い悪い。だが、大丈夫だって、そうそう起こらないさ。」 頭を撫でる。玲は頭を俺へともたれかけた。 その日の帰り道。突然、玲は思い出したように足を止め鞄を漁る。 同じように足を止め、玲を見る俺。一体何をしたいのだろうか、と思っていると、小さな袋を差し出す。 −これ。− 片手で伝え、小袋を突き出す玲。受け取り、中を見てみる。 白いアザラシのキーホルダー。いつだったか、抱き枕として使っていたアザラシと同じキャラクターらしい。 玲は自分の鞄を指差す。鞄のファスナーに同じキーホルダーが。 意味を理解。キーホルダーを同じようにファスナーにつける。 玲はほんのわずかだが、にっこりと笑った。その表情に、何故か胸騒ぎを覚える。 その笑顔が、なくなる日がくるのではないか。しかも、近い日に。 俺は言い知れない不安を隠すように笑った。玲は俺の本音には気付かず、手を取る。 この手の暖かさが、心の黒い篝火をかきたてる。黒い炎は、時間が経てば経つほど、意気盛んに燃えた。
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