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なんとも重苦しい気分で次の試合に臨んだ。 実力で均衡してはいたものの、気迫で負けた。 その1敗が唯一の黒星となり、結局2位でクラスマッチを終えた。 教室内。どの顔もうつむき気味だった。 あの苦い勝利が、俺らの心を縛っていた。 あの泣き顔達が、俺らの心を必要以上にいたぶった。 結果だけを見れば、誇れるものだったろう。だが、やはり気分は晴れない。 頭では分かっている。「仕方ない」と。俺らは勝利を目指したのだ、と。 向こうも、それを逆手にとって試合に臨んだ節があるはずだ。 それでも、呪縛は解けない。おもりが心を沈めていく。 放課後。帰り道。 「熱鯛雨林」のたい焼きを購入。あまり食欲が湧かず、2個でとどめておく。 一口かぶりつく。いつもの甘さ。いつもの食感。だが、いつものように美味しく感じられない。 そのまま、もぐもぐと食べる。が、すぐに茶を飲んで流してしまう。 手には食べかけのたい焼き。まだ温かく、白い湯気がのぼる。 隣の玲はこちらに視線を向ける。俺はうつむいたまま、動かない。 玲は袋の中からたい焼きを一個奪い取り、はむっ、と一口。 口を動かしながら、こちらを見る玲。最初は不思議そうな目線に、だんだん暗さが宿り始める。 歩を進め、交差点までやってきた。夕方の帰りのラッシュで、人は多い。横断歩道は赤の信号。 俺はようやく顔をあげ、視線の主に目をやり、笑いかける。乾いた笑い。 逆に不安を煽ったようだ。玲は急に俺に抱きついてきた。 「うわあっ!?」 思わず声をあげ、たい焼きを落としそうになる。 固まり、2人して動かない。俺の声に反応して、周りの視線が一気に集まる。 色々な所からヒソヒソ話や露骨な野次、明るめの揶揄の声が聞こえる。 玲の手には力が入っている。ぎゅっ、と腕を握られる。 顔が熱くなっていく。だんだん、脳の活動能力が低下していく。 と、信号が青に変わった。チャンス。 「ちょっと失礼っ!」 一気に走り抜けようとする。だが、玲の手が思った以上に力が入っていて、うまく走れない。 こうなれば、背に腹は換えられない。向き直り、膝を曲げ、玲の首と膝に手をかける。 そのまま、お姫様抱っこ。まずはこの人通りの多いところから脱出しなければ。 した瞬間、歓声とも奇声とも似つかない声があちこちから聞こえた。ドライバーはクラクションで抗議。 「すいませんすいませんすいませんすいませんっ!!」 叫びながら、走り抜ける。50m7秒の俺がこの時ばかりは5秒で走り抜けた。気がした。 自宅へ到着。さきほどの交差点から歩いて5分なのだが、2分とかからなかった。 肩で息をする俺。玄関で靴を脱ぎ、リビングに入った途端足の力が抜けた。 すでに膝は笑い、まともに立てない。腕は痺れ、力が抜けた。思いっきり頭をフローリングの床にぶつけた。 うつぶせながら、ぐおおおぉぉ、とうめく一人の男子高校生。かなりアホだ。 玲はその後ろで何やら思案している様子。横目で見ていると、上にのっかってきた。 「おあっ!?」 足も腕も単なる棒と化しているため、抵抗できない。首だけ横に向け、抗議の視線を送る。 そのまま、覆いかぶさる玲。俺の身体は段々と熱を帯びていく。 何をされるのか、不安に思っていると、玲は背中に指を這わせる。 何事か、と思って背中に神経を集中する。文字を描いているようだ。 「あ………り…き、に…し………く…て…い…い…。」 床にわずかな水溜りが出来ていた。ぽたっ、ぽたっ、と水が床に落ちる音。 意図を理解した俺は、そのまま黙る。背中の言葉は続く。 し、ん、ぱ、い。き、み、が。 俺は棒となった腕に力を入れ、体勢を変えてあぐらをかく。 玲はその前にちょこん、と座った。うつむいたまま、何もしない。肩だけが震えている。 肩をとんとん、と叩く俺。顔を上げる玲。いつもより、少し紅潮した顔。 俺は玲に笑いかける。かすかな、しかし心のこもった微笑み。 目を見張る玲。俺は玲の頭を撫でながら言う。 「俺は大丈夫だ。」 玲は顔をぬぐう。手で意思表示。 −じゃあ、今日の夜も期待して良い?− 俺はがっくりした。テンション右肩下がり。スキーヤーとスノーボーダーが滑降中。 気付けば、普通に戻っていた。暗い気持ちは、どこかへと消え去っていた。
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