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クラスマッチ当日。朝のホームルームが終わると、皆あわただしく外へ。 校庭は広め。校庭の端から端まで、だいたい300mほどだ。 バレーのコートは6つ。サッカーのコートが一つ。ソフトボールのコートが一つ。 各チームに分かれ、準備体操や作戦の確認、気合入れを行っている。 俺らは校舎に最も近いバレーコートの外に居て、円陣を組む。 「いいかぁーッ!相手を倒すんじゃねぇーッ!殺すつもりでいくぜえーッ!!」 キャプテンが叫ぶ。同調し、叫び声をあげる俺達。 「オオオオォォォォッ!!」 キャプテンはより大きな声で、グラウンド中に響かせる。 「『ぶっ殺す』と思ったならァーッ!!」 俺達も負けじとあらん限りの力を込めて叫ぶ。 「既に『ぶっ殺して』いるんだァーッ!!」 最後に言葉にならない咆哮をし、円陣を解く。各自準備運動へ。 いち、に、さん、し、と口に出しながら伸脚。 手首をブラブラと振り、突き指対策に指を動かしておく。 相手のチームも向こうのコートに入ったようだ。初戦は同じ1年。 体操服の下の色で分かる。1年は青、2年は赤、3年は緑だ。分かりやすい。 ゼッケンには「1−5」の文字。バレーボールをかたどっているようだ。 初戦の時間は俺達しか当たらないため、クラスメイト全員が応援に駆けつけた。 「第一試合開始ーっ!」 マイクでグラウンドに放送が流れる。 すぐさま歓声でかき消されるアナウンス。少しかわいそうだ。 「そーれっ!」 女子がサーブにあわせて掛け声をかける。 「オラァッ!」 後ろから高くボールを投げ、走り出す。コートの直前で跳躍、サーブを打つ。 ネットスレスレに、ほぼ直線の軌道を描いて相手のコートへ。 相手は危なそうにレシーブ。トスは中途半端に上がり、スパイクも打てずじまい。 向こうは練習量が足りてない、と即座に判断した俺達は猛攻撃を開始。 3段攻撃をせずに2段で攻撃したり、さらには1回でスパイクを打ったり。 結局、一回の試合時間は10分をとっているのだが、3分でカタがついてしまった。 「ありがとうございましたぁーっ!」 両者一礼をする。向こうは肩を落とし、クラスメイト達に励まされていた。 「相手が悪かった」「次頑張れ」などと聞こえてくる。 彼らとは裏腹に、俺達は歓喜の渦の中へ身を投じた。 クラスメイトから送られる、賞賛の言葉。一つ一つが嬉しい。 次は2−4とあたるため、事前に下見に出かける。 まだ試合が終わっていないようで、9−10で2−4は負けていた。彼らの相手は3−9。 サーブはよく入る。レシーブも上々。だが、攻撃力、すなわちスパイクの精度がさほど高くはない。 隅を狙いすぎて外す時もあれば、たまに打てないときもあった。 次の試合に向けて早くも作戦会議を開く。 彼らの守備は中々だから、こちらも守備に徹して相手のミスを誘う作戦にする。 昼休み。先ほど2−4、1−7、2−9とあたったが、いずれも勝利。 ただ、2−9に関しては相手が一人欠員のため、ベストコンディションではなかったようだ。 それでも僅差の勝利。相手が万全だったら恐らく負けていただろう。あなおそろしや。 教室で弁当を食べる。もちろん、カツが入っている。いい加減油まみれになりそうだ。 カツにそえられたキャベツにマヨネーズをかけ、もしゃもしゃと食べる俺。 皆の弁当の中身もやはりカツ。考えることは皆一緒で、かなり苦しそうだ。 そこへ、他のクラスの人間がやってきた。 「なあ、次は3−2とあたるのか?」 訊いてきた。キャプテンがカツを飲み込んでから答える。 「そうだけど、なんかあるのか?」 クラス中が交わされる会話に耳を傾ける。 「実はな、3−2には『負けられない理由』があるんだそうだ。」 彼が語った理由を要約すると、 ・3−2には病弱で中々学校に来れない女子生徒が居る ・今日はその子が無理をして学校に来ている ・試合の前にそれを話され、躊躇する ・そのスキをつかれ、敗北 だそうだ。実に分かりやすい古典的手段ではある。 が、その古典的な手段が今も息づいているには理由がある。 凍った教室の空気、頭を垂れ、誰も上げない、重い雰囲気が全ての理由を物語る。 誰もが口を開かない。告げた彼は早々に立ち去ってしまった。 昼休み終了のチャイム。足取りが軽い人間など、一人も居なかった。 「見ててくれよ、絶対に勝つ!」 コート内の男子が観衆に向かって宣言。 向こうの陣営は湧く。こちらの陣営は逆に静まる。 やはり、直に訊くとこたえる。辛い。勝てばこちらが悪者のような気がする。 時間が来る。両手を握り、構える。試合開始の笛が鳴る。 向こうからのサーブ。山なりの、返すのが容易なサーブ。 これは様子見だ、相手に情けをかけているんじゃない、と自分に言い聞かせながら向こうへレシーブを高く打つ。 はっきり言って、向こうは弱い。レシーブはあさっての方向へ飛んでしまうし、トスもうまくあげられない。 スパイクなどもってのほか。サーブは下からでしか打てない。上からだと入らない。 しかし、向こうの応援しているクラスメイトの一団の中に、一際色の白い、髪の長い女子。 隣の女子に支えられるように立っている。明らかに彼女が問題の人だ。 こちらとしてもやりにくい。向こうのミスを誘おうと考えても躊躇してこちらがミスしてしまう。 あっと言う間に9点差。こちらは1点も入れられない。焦りが募る。 焦りが決意を呼んだ。俺は叫ぶ。 「朝の言葉を思い出せェーっ!!」 チームがハッとする。向こうは疑問符を浮かべる。一人が声をはりあげる。 「『ぶっ殺す』と思ったならァーッ!」 クラスメイトまでが同調し、グラウンドに響く。 「既に『ぶっ殺して』いるんだァーッ!!」 向こうを気で押し返す。俺は前を、相手を見て、叫ぶ。視線は前だが、意図はチームの鼓舞。 「血があぁっ!!」 ネタを理解したクラスメイトが叫ぶ。 「たあぎってきたぜええぇぇっ!!」 それを期に、俺達はふっきれた。 その後、相手に1点も入れさせず、逆転勝ち。 だが、後味が悪い。1敗しただけで泣き出す向こうの陣営。 こちらは勝ったのに、嬉しさは無い。誰もが苦虫を噛み潰した表情を浮かべていた。
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