前へ  次へ

クラスマッチ前日朝。教室。皆がハイテンションだ。 「あらすじが分からない人は、まとめの22あたりを見てくれッ!」 ずびしっ、と誰も居ない空間に向かって指をさし、叫ぶ俺。 誰も彼もが不可解な顔で見る。だが、すぐに自分の作業へと戻る。 女子達はゼッケン作りに励み、男子達は応援のための横断幕を作っている。 ゼッケンには「F・I・G・H・T!1−3!」と青で描いてある。背景は炎。 横断幕には日の丸の中心に1−3と描かれ、円状にみなの寄せ書きが書いてある。 俺は「全力前進。」と書いた。なぜか「見よ!東方は赤」で途切れている文が。横には血痕らしきもの。 その一部始終を見ていたわけではないが、戦慄を覚えた俺は視線を外した。 授業中もその話題で持ちきりだ。 午後も含め、6時間の授業のうち、半分の3時間がクラスマッチに関する講義となった。 担任の社会科教師(→1、3)、自称恋愛に詳しい国語教師(→10)ちょっとズレた音楽教師(→21)。 いずれも、かなりの猛者だ。言い換えれば、自他共に認める変人奇人。 担任は若かりし頃の活躍を耽美に語りだす。なぜか証拠の写真まで持ち出す始末。 写真は1982年のもの。高校三年生のとき。かなりの好青年だったことがうかがえる。今は見る影も無い。 国語教師はクラスマッチの真の楽しみ方を、特に女子達に伝授。 こちらは俺らが分かるよう、プリントまで作る始末。ここまで私的に使われると呆れて物も言えない。 あの先生と、女子達の眼の輝き方の恐ろしさと言ったら、今思い出すだけでも寒気がする。 音楽教師は応援の仕方について熱く語った。背景音として「ガガガッ」と流れ出すのに笑った。 いわく、「ノリにノれ」とのこと。男子達はかなり盛り上がっているようだ。 3人の盛り上げによって、クラス全員が一致団結したようだ。 放課後。クラスメイトは誰も帰っていない。誰もが何かをしている。 俺は枠から外れて、いつもどおり人間観察。仕切っているのは体育委員の2人のようだ。 女子の方は絵の具の使い方、色の混ぜ方、そういった細かいところまで懇切丁寧に指導。 男子の方は気合を入れるために「ばちーんっ」と平手打ち。なぜかあごを突き出しているように見える。 「殴ったね?」 ばちーんっ(二度目)。 「二度も殴ったねっ!?親父にもぶたれたことないのにぃーっ!!」 涙を滝のように流しながら男子の一人が脱兎のごとく駆け出す。 俺はため息をつきながら、ドアの手前で左腕を掴み、捕獲。 横断幕の元へ連れて行き、叩かれた仲間と共に痛みを分かち合うように仕向ける。 彼は再び眼を潤ませる。「同士(とも)よーっ!!」と叫びながら男子達と肩を叩きあう。 「やれやれ。」 首を振りながら、再び枠から外れる。ふと、玲を遠目で見てみる。 玲は普通ぐらいの運動神経を保有。今はゼッケンを作っているようだ。 近くに寄ってみる。なぜか「1−3」の部分が「羽里」と固有名詞化していた。 とんとん、と肩を叩く俺。気付き、振り向く玲。手は絵の具で少し汚れている。 「それ、何?」 あれ、この状況、前にもあったぞ?と思ったがもう遅い。玲は視線を手元に戻しながら、答える。 −ゼッケン。− がくん、と音を立てて肩の力が抜ける。またか。 音に反応し、視線をこちらに向けた女子達は空気を読み、段々と俺と玲から離れていく。 その光景を横目で見ながら、俺は下がった視線を玲に戻す。 気付くと「羽里」の両隣にハートが書き加えられていた。思わず顎が外れる俺。 「な、ななっ!?」 顔がだんだんと紅くなっていく。玲は俺の声に反応し、こちらを向く。 一歩引いた俺を見て、手を動かす。 −私がつけるんだから、いいでしょ?− さも当然、といった表情で訊いてくる玲。俺は頭を抱える。 周りは自分達の作業に集中しているため、俺達への関心は薄い。俺は言う。 「それは、つまり、俺に、晒し者になれ、と?」 顔の筋肉がひきつるのが手に取るように分かった。口元がヒクヒクしている。 玲は作業を続ける。筆についた絵の具が尽きかけると、玲は筆を置き、こちらを見た。 −キミ、今までも晒し者だったんだけど。もしかして、今気付いた?− 二度目の「がくん」。もう肩に入れる力はどこかへと消え去ってしまった。 苦笑いを浮かべる俺。明日に使う活力を、「熱鯛雨林」のたい焼きを思い浮かべながら補充した。
前へ  次へ 長編へ  トップへ

[★高収入が可能!WEBデザインのプロになってみない?! Click Here! 自宅で仕事がしたい人必見! Click Here!]
[ CGIレンタルサービス | 100MBの無料HPスペース | 検索エンジン登録代行サービス ]
[ 初心者でも安心なレンタルサーバー。50MBで250円から。CGI・SSI・PHPが使えます。 ]


FC2 キャッシング 出会い 無料アクセス解析