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朝の7時30分。学校に到着。 まだ正門や昇降口には生徒達が居る。遅刻はしない時間のため、悠々と入っていく。 黒のスニーカーを下駄箱へ入れ、赤の上履きを取り出し、履く。 玲は革靴を脱ぎ、同じ赤の上履きを「とんとん」とつま先で床を叩き、しっかりと履く。 手を差し出す玲。その手を取り、俺は教室へ向かう。 7時33分。教室。俺の机だけがアンパンで埋まっていた。 よく見ると、賞味期限はことごとく昨日で切れている。 クラスの男子のみならず、同じ学年の男子全員が俺を怨の目つきで見ている。 「『覚悟しとけ』の意味がこれ、か。」 俺は深く、深くため息をつく。45リットルのビニール袋をもらい、せっせとアンパンをつめこむ。 やってきた先生に断りをいれ、全てのアンパンをつめこんだ袋をかついで、外にあるゴミ捨て場へ。 どさり、と音を立てた袋をある種の哀れな目で見て、額の汗をぬぐいながら教室へ戻る。 なぜか机の上にはアンパンに埋もれていた頃にはなかった花瓶が。 どうやら供え物の花は準備できなかったらしい。それでもかなり精神的ショックだ。 俺は肩を落とし、席に着く。花瓶は取り敢えず教卓の上にでもおいておくことにしよう。 昼休み。席で玲が作ってくれたお弁当をもぐもぐと食べる。 格好の質問の的である。ほとんどの質問は、 「昨日何したっ!?」 という、予想するのが容易な質問だ。あまりに単純脳味噌過ぎて、呆れてくる。 俺のほうに男子が憎しみと共に、玲の方に女子が好奇心と共に近づいてくる。 さらりと流す俺。より一層憎しみを強くする男子。玲はまともに答える。より一層好奇心をかきたてられる女子。 だんだんと、落ち着きを無くす男子が増え、ナイフを構えたりシャドーボクシングをしたり。 危険なにおいが教室に満ちていくが、玲の周りだけは花畑の雰囲気である。 すでに玲の周りの女子達はまるで少女マンガのようなキラキラした眼をしている。 玲はいつものように無表情のまま、淡々と手を動かし続ける。 向こうからは「えーっ!?」「そんな味なのーっ!?」と聞こえてくる。なんの話だろう。 俺はその二極化された状況を見て、はぁ、と深くため息をつく。 フォークが俺へ向かって飛んでくるのをひょいひょいと避けつつ、弁当を食す。 ガラスに突き刺さったり、壁に突き刺さったりと、被害を増しながら飛んでくるフォークたち。 避けるスペースがなくなったため、右手で箸を持ち、左手でフォークを受け止め床へ捨てる。 人差し指と中指を使い、飛んでくるフォークをはさみ、そのまま手を床へ振る。 数秒に一本のペースで飛んでくるため、楽々受け止めることが出来た。 昼休みの最後の方になると、食事をしたり話をしたりしながらフォークを受け止めることが出来るようになった。 わずかに身の危険を感じつつ、ある意味平凡で、ある意味異常な昼休みは過ぎていった。 帰り道。ウキウキ気分で帰る俺。両手にはたい焼きが美味いと有名な「熱鯛雨林」の袋。 「熱鯛雨林」のたい焼きは、あんこの甘さがほどよく、しっぽまであんこが入っている。 「さらに!一つ100円と言う低価格!高校生に優しいお値段となっているのだっ!」 と、握りこぶしを作り、飲み込んでから叫ぶ俺。 −誰に言ってるの?− と、呆れ顔の玲。俺の食いっぷりに呆れているようだ。 いつもなら買うのに20分はかかるのだが、今日は運が良く3分で買うことが出来た。 あまりに嬉しかったため、14個も買ってしまった。口をもぐもぐと動かしながら歩く。 口の中にあんこの上品な甘さと、表面のさくさくとした舌触りが実に美味い。自然と顔がにやける。 玲は俺の腕の袋の中からたい焼きを一個強奪。そのまま、ぱくっ、と一口。 「ふぉうふぁ?」 もごもごと食べながら訊く。玲はその甘みをゆっくりかみ締めながら咀嚼。 ん、と飲み込み、ペットボトルのお茶をこくん、と一口。手で伝えてくる。 −美味しいね。− すこし目尻が下がる。また、たい焼きを頭からぱくり、と食す玲。 結局、12個を俺が、2個を玲が食べ、袋は空になった。 腹ごなしをするため、すこし歩く。いつもなら通らない道も通ってみる。 裏道を通ってみたり、池のある公園の遊歩道を歩いてみたり。 玲は俺と密着しながら、暖かさを感じながら俺と一緒に歩いた。 初々しい青葉の隙間からもれてくる夕陽。少し、物思いにふけさせる日の光。 池のほとりにあるベンチに座る俺。隣に座り、密着する玲。 そのまま、しばし2人とも動かない。わずかな風が通りすぎていく。 俺は斜め上を向き、何をするでもなくぼーっとする。青葉が風で揺れ動く。 俺の手を強く、ぎゅっと握る玲の手。玲のほうを見る。 玲はずっと俺のほうを見ていたようだ。玲は語りかける。 −ずっと、続けばいいね。− 頭を俺の肩に乗せる玲。その重さを感じ、暖かさを感じながら返答。 「そうだな。いや、『ずっと続かせる』んだ。」 意思を言葉にのせて言う。玲は反応し、俺へ視線を向ける玲。 玲は肩を近づけてくる。その動きに同調し、俺も近づく。 顔が近くなる。風は既にやみ、うっすらと暖かい日だけが俺らを照らしていた。
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