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昼の12時。 玲に時期が違う七草粥と、にんじん、大根が具のシンプルなコンソメスープを出す。 俺はラーメンをすする。とんこつ醤油味で、具はもやし。 もやしのシャキシャキ感がアクセントになり、美味い。やはり「ハカタ一番」が最高だな。 テレビをリモコンでつけると、「おひるや〜すみはウキウキウォッチン♪」と流れ出した。 玲は無視。俺は麺を口に運びながら横眼で見る。 コップにお茶を注ぎ、ゆっくりと飲む玲。箸が止まる回数を増やしつつゆっくり食べる俺。 段々と麺がのび、かさが増す。気付き、慌てて勢い良く胃へ流し込む。 玲は粥の最後の一口をもくもくと咀嚼し、こくん、と飲み込んだ。 手を合わせ、ごちそうさま、と一礼。なんでも食べ物には感謝しなければならないタチらしい。 俺は麺を駆逐したあとのスープまで全部飲み干し、ぷはぁーっ、と息を吐く。 まだ出してあったコタツにもぐりこむ玲。流しに食器を入れながら言う。 「そんなとこだと、風邪がひどくなるぞ?」 玲はこちらを見、しぶしぶ布団へ戻る。すでに熱は下がったようだ。 布団にもぐって、そのまま考え事をする玲。布団の横で、壁に背中でよっかかる俺。 昨日の疲れが出てきたのか、段々とウトウトしてくる。 首が支える力をなくし、脳内に霧が出始める。見える視界にフィルターもかかりはじめた。 寝まい、と顔をパンパンと叩く。頬がひりひりして痛い。だが、それでも睡魔は退散しない。 ついに俺は睡魔に負け、意識を失った。 眼を覚ます。時計は午後6時10分を指していた。そして、なぜかアンパンに埋もれている俺。 俺の周りだけ、数百と言う単位のアンパン。座った時の、胸のあたりまで埋まっている。 状況が飲み込めず、霧がかかった脳味噌でボケーっと考えてみる。分からない。質問してみる。 「なあ、これ何?」 玲は布団から起き上がり、手を使う。 −アンパン。− がっくりきた。もしかして、とは思ったが、やはりか。 予想通りの展開に、俺の脳味噌は段々と暗くなっていく。もう一回訊いてみる。 「そうじゃなくてさ、このアンパンはどこから湧いて出てきたんだ?」 玲はピコーン、と頭に豆電球を光らせる。やっと理解したのか。 布団の脇においてあった2枚の手紙のうち、1枚を差し出す。何事か理解できないまま、読んでみる。 お世辞にも綺麗とはいえない字。おそらく男子だろう。なぜかふやけている。 「ん?俺に対してだけか?」 中身を理解するにつれ、俺の脳内は段々と黒滔滔たる闇が支配していく。  幸せ絶頂期のをのこへ。  見舞いに来たが、お前は寝ていたようなので、土産を置いておく。  皆からの気持ちだ。ありがたく受け取っとけ。  特に、男子勢からの気持ちは半端無い。学校に来た時は覚悟しとけ。 最後に、でっかく血文字で「怨」の字。少し黒ずんでいる。わなわなと震える俺の手。 「な、なんなんだよォーッ!」 脊髄反射で手紙を引き裂く。同時に「ちくしょうがァーッ!!」と叫ぶ。 玲は耳をふさぐ。もうアンパンを『悲哀の化身』と呼ぶことにする。心の中で決意を固める。 ビリビリと揺れる部屋。その5秒後に冷静な頭に戻る。ちょっと後悔。 アンパンの山を崩しながら、俺はもう1枚の手紙を手に取る。 ひし形のシールで止められた封筒を開け、中から便箋を取り出す。 「お、玲と俺宛てだ。」 その言葉に反応し、俺へと近づく玲。肩を寄せ、2人で見る。 特徴的な丸っこい字。こっちは女子のようだ。  玲ちゃんへ。  風邪は大丈夫?熱は下がった?  男子達に学校のプリント持っていってもらってるから見て。  明日、元気に学校に来てね。みんな、待ってるから。  項貴くんへ。  仮病だって?(笑)先生がため息ついていたよ。  「いくら一緒に居たいからって、あんなバレバレの仮病使わなくても」って(笑)  で、男子達が憎しみと嫉妬で燃えてたよ。教室中が火の海。もうたいへんたいへん。  みんなでアンパン買って、おしつけてやろうって画策してたから、ついでにプリント持って行かせたよ。  看病、頑張って。 手紙を封筒にしまう。玲は見た。頭を抱えている俺を。 とりあえず、弁解を考えるのは後回し。飯の準備に没頭することに。邪念を振り払わなければ。 夜の11時。豆電球だけがついた、薄暗い寝室。 布団は一つ。俺と玲が、隣同士で寝る。そんな時でも腕を絡ませる玲。 右を見ると、アンパンが山積みになっている。どうせ明日の朝にはゴミになるのだ、って眼で見ておく。 玲がだんだんと俺に近づいてくる。密着。玲は俺のほうを向き、手で訊いてくる。 −今日はしないの?− 俺は理解した直後にため息をつく。確かに、昼寝はたっぷりしたから眠くは無い。 だが、わざわざ病人に体力を使わせるようなマネはしたくない。 俺は手でしないことをアピール。小さくため息を吐き、あからさまにがっかりする玲。 「とりあえず、寝よう。」 と、俺は玲と反対の方向を向き、眼を閉じる。直後、玲は俺を抱擁。柔らかい感触が背中に伝わる。 (欲望に)負けちゃダメだ、負けちゃダメだ、負けちゃダメだ…と自分に言い聞かせる。 腰を俺の身体にこすりつけはじめる玲。悪魔がささやく。「やっちまいな!」と。欲望の堤防が崩壊しかける。 眉間に皺が自然と寄り、手をもぞもぞさせながら何とか耐え切る。一回乗り切ってしまえばこちらのものだ。 玲は身体を離す。今日はやけに諦めが早い。何か嫌な予感がする。 布団がかすかに動く。何をしているのだろう、と思って玲を見る。 布団の中で、パジャマを脱ぎだしていた。すでに下着姿である。 再び、近づいてくる。 「ちょ、ちょっと待―――――。」 うるさい口はだまらっしゃい、って感じで唇をふさがれる。 あぁ、涙が顔をつたう。玲は唇を離し、俺の涙を舐める。 「うあっ!」 飛び起きる。玲の手は既に背中に回され、「パチッ」と音が鳴る。 予想できた光景を見ないために、そっぽを向く。また、俺は手ごまにされるのか、と頭をかく。 覚悟を決め、玲と向き合う。俺の表情に玲は一瞬びくっとする。夜は、長かった。
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