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朝の8時43分。教室。 昨日の活気はどこへやら、普通のテンションに戻っている。 講堂に溜まりに溜まったアンパンは焼却処分されたらしい。 もくもくと上がる煙が、何故か泣いている人の顔に見えたそうで。怨念? 俺は買ってきたサントリーの烏龍茶を飲みながら一息。 やはり朝の7時50分からの授業はきつい。 それは皆も同じで、あくびをしたり机に突っ伏したりと、眠さに身を任せる者は多数。 その中で、せっせと英語の予習に余念が無い玲。 辞書をパラパラとめくり、ノートに訳を書き込み、頭を抱え、辞書を引き、の繰り返し。 俺は授業中に予習を同時進行で行うため、休み時間は特に何もしない。 とりあえず、単語帳でもめくることにする。 「referが言及する、relateが関係づける、remindが思い出させる、recallが思い出す。」 口に出して読む。書くほうが確かに効果は高いが、俺は朗読する方が性に合っている。 周りは寝るか喋っているかどちらかなので、俺の声はかき消されていく。 廊下をバタバタと走り去る音がした。誰かが遅刻してきたのだろうか。南無。 外は少し雲がかかっているが、概ね晴れ。外で動くには最適。 先生がドアを開けた。単語帳を閉じる。皆は急いで席へ。朝のホームルーム、そして、今日が始まる。 3時間目の体育。 クラスマッチの一週間前ということで、先生は見ているだけ。 俺らの自主性に任せて練習するなり腕試しするなりしろ、ということだ。 まずはトス。手で三角を作る。位置は顔を上に向けた時の、額の上。 音が出来るだけたたないように、トスを上げる。後ろに上げてしまうのは失敗だ。 2人でペアを作り、トスを連続100回し続ける。 次はレシーブ。膝を落とし、片手は軽く握り、もう片方がそれを包み込むように構える。 手首と肘のあいだでボールを上へと打ち上げる。その時の膝の使い方が肝要だ。 サーブは「押す」感じだ。「叩く」、という訳ではない。 コートの向こうからサーブを打ち、レシーブで返す。 向こうはサーブの練習、こちらはレシーブの練習になる。 最後はスパイク。2人一組になり、1人はセッター、もう1人はスパイクを打つ。 3歩で加速し、両足を揃え、飛び上がる。うまくボールにタイミングを合わせ、斜め下に打つ。 一通り基礎練習が終わると、次は3段攻撃。 1回目はレシーブ、2回目はトス、3回目でスパイクを打つ、バレーの常套手段。 最初は向こうからサーブを打つ。レシーブする時は出来るだけセッターへ。 セッターは右か左か、明確に言ってからトスを上げるよう心がける。 「オラァッ!」 ズドッ、と地面へボールが叩きつけられる。僅かながら形が楕円形になった。 向こうがサーブを打ってくる。ボールを高く上げ、飛び、弾丸の軌道を描きこちらのコートへ。 後ろの人間が飛び込み、なんとか拾い上げる。 セッターはボールの下へ入り込み、「ライトォッ!」と叫んでトスを上げる。 俺は走りこみ、飛び上がり、力と気合を込めて打つ。 「ハァッ!」 うまく入ったようだ。ボールの当たった地面から砂煙が上がる。 2,3回と繰り返し、締めは練習試合。15点マッチ。 相手側のサーブから。鋭いサーブがネットを掠めてこちらのコートへ。 飛び込んで高く上げる。セッターは「レフトォッ!」とトスを打つ。左の人間がスパイクを全力で叩きつける。 が、相手は経験者が多く、いとも簡単にレシーブされてしまう。さらには、時間差攻撃まで仕掛けてくる。 ひるまず、立ち向かう。負けないために必要なことだと俺らは思っているのだ。 結局、8対15で負けてしまったが、中々面白かったし、実入りもあった。 相手の時間差攻撃の癖を見つけたし、こちらの改善点も見つけた。 タオルで汗を拭きながら、仲間と相談。スパイクの威力を更に上げることで合意した。 昼休み。屋上。 玲が持ってきたお弁当を食べる。やはり玲も意識しているのか、カツが毎日のように入っている。 俺は烏龍茶を飲みながら食べ終わった弁当箱をしまう。 毎日これでは、胃腸に応える。事実、毎日鷲のマークの胃腸薬にお世話になっている。 空には太陽が昇っている。雲は風に流され、すでに俺の視界には無い。 玲は隣でもくもくとイチゴを食べている。手でつまみ、へたを取り、口へ放り込む。 密着している。春で日差しはさほど強くないが、少し暑い。 だが、人の温もりはさほど不愉快にはならないようだ。特に大切な人であれば。 屋上は基本的に人は居ないのだが、今日は昨日の狼藉もあって野次馬が絶えない。 物陰からストーカーのように眼を光らせる者、屋上に出てきて弁当を食べるフリをしている者。 色々な視線が俺と玲につぎ込まれる。玲は恥かしがるどころかむしろ嬉しそうだ。 玲いわく、「見せ付けられるから」だそうだ。いつか俺は真っ白に燃え尽きちゃうぜ? と、玲の手が俺の手を掴み、自分の胸へ。観衆は歓喜。それはダメだと制す。観衆は落胆。 少し不満げな雰囲気を漂わせる玲。俺は「ダメなものはダメだ」と視線で訴える。 しぶしぶ承諾したようだが、代わりに浅いものをしてきた。燃え尽きた、真っ白にな。 放課後。帰り道。 一週間後に控えたクラスマッチの練習に明け暮れたせいか、少し筋肉痛がする。 特にスパイクを打つ右手。肩をぐるぐると回す。首をコキコキと鳴らす。 玲は俺の左手を握り、こちらを見ている。何か言いたそうだ。 視線に気付いた俺は玲を見て、促す。手話で語りかける。 −今日は、帰ったらマッサージするね。− 肩もみぐらいだろう、と思っていた俺は、その夜、驚愕する事になる。 なんと、指圧が出来るというのだ。どこでそんな技術を手に入れたのか、不可解でならない。 しかし、実際にやってみて「ボキッ」と音が鳴るたびに気持ちよくなり、身体が軽くなる。 たまには気の利いたことをしてくれるなあ、と椅子に座って思っていると、玲は言う。 −今日の夜は頑張ってもらいたいから。− 「軍曹っ!被害状況はっ!?」 「出力38%低下!まだ作戦行動に支障はありません!!」 「ならこのまま全速前進で突っ込むぞ!」 「イエス、サーッ!」 「ヤツに一泡吹かせてやる!」 「イエス、サーッ!!」 脳内ブリッジでの会話が一瞬流れましたが気にしない気にしない。 しかし、俺のテンションは右肩下がり。しかもかなり急。そのグラフをスキーヤーが滑降していく。 気付くと、玲は俺に徐々に近づいてくる。すぐに俺の目の前へ。 俺の顔を見、今度は深いもの。今日も相手が求めるがままにしてしまう悲しい確信があった。
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