前へ  次へ

「わかいいのちがまっかにもえぇ〜てぇ〜♪」 休日。朝の9時。眼を覚まし、起き上がる。背伸びを一回。朝から喉の調子は快調だ。んー、マンダム。 窓を全開にして、空気の入れ替え。さわやかな風が部屋を駆け抜ける。 「みぃたかぁ〜がったいぃ〜♪」 コーヒーメーカーがコポコポ鳴る。久しぶりに何も無い、平和な朝。 ゆで卵をきり、パンの上へ。キュウリ、トマト、生ハムをのせ、マヨネーズ投下。 パンを半分に折る。はい、サンドイッチの完成でーす。朝っぱらからハイテンション。独唱にも力が入る。 「みぃ〜っつぅ〜のここぉ〜ろがぁ〜ひとつになれぇ〜ばぁ〜♪」 歌を中断し、サンドイッチを食す。味は変わらないが、それがいい。 生ハムの塩味と、卵の舌触り、キュウリのしゃきしゃき感、トマトの酸味がマヨネーズでまとめられている。 うむ、美味なり。パクパクと一枚をあっさりと完食。 2枚目を取り出し、バターを厚めに塗り、砂糖をふりかける。 そのままオーブントースターへ。3分ほど焼き上げる。 すると、バターが溶け、砂糖の甘みがバターへ染み、案外美味いのだ。 ぜひとも試していただきたい。簡単お手軽三分クッキング。ちなみに赤ちゃんの人形は出てこない。 焼きあがるまで少し時間がある。熱々のコーヒーをカップに注ぐ。 湯気と共に、焙煎した時の独特の香ばしい良い香りがする。今日の火加減は少し軽めにした。 牛乳を入れる。黒いコーヒーに、白い筋となる白い牛乳。スプーンで混ぜると、混ざり合う。 平和な時間。オーブントースターがパンを焼き、スプーンを動かす。 その貴重な時間を潰す、唐突なインターホンの機械音。もしかして。まさか。お願い。違ってくれ。 祈る気持ちで玄関へ。ドアチェーンをし、心なしか慎重な手つきでドアを開ける。 見慣れた顔。髪は肩までのショートカット。青色のシャツ。淡いピンク色のスカート。 何も装飾がなされていない分、よりスレンダーなイメージがある。 −おはよう。− ドアの前に立つ女性、玲はこともなげに言う。かく言う俺はまだ寝巻きとして使っているジャージ。 まずは家へあがるようジェスチャー。玲は皮のブーツを脱ぎ、リビングへ。 食事の後をあわただしく片付ける俺。それを、椅子に座り眺める玲。 流しに食器をブチ撒け終わった俺は、自分の部屋へ。ドアを閉め、着替えようとする。 ジャージの上着を脱いだ時、閉じたはずのドアから玲が顔をのぞかせた。 「ど、ドア閉まって無いぞッ!何やってんのッ!?」 上半身裸のまま、言う俺。第三者から見れば、なんともマヌケな格好。 玲は俺の上半身を凝視。視線は揺るがない。もう気にしないことにする。 上半身に、黒地に赤で炎が描かれたTシャツを着る。 銀の、茨と十字架をかたどったブレスレットを腕にはめ、Gパンを手に取る。 ちなみに俺はキリスト教徒ではない。ドアの方を見る。まだ玲はドアの隙間から顔を出している。 無垢な視線と眼が合う。羞恥心が無防備な俺の理性に襲い掛かる。 「頼む、ちょっとでいいから眼を背けてくれねーか?」 両手を顔の前であわせ、懇願。玲は無視。露骨な黙殺。反応も無い。ノーリアクション。 俺は肩を落とす。ええい、なるがままよ。どうにでもなれ。 ジャージの下を脱ぎ、急いでGパンを履く。こげ茶色で、皮のベルトをとおす。 俺の早業に、玲は眼がついていかなかったようで、顔は無表情ながら不満を手で示す。 −もっと遅く着替えてよ。眼の保養になるのに。− ならねぇーよっ、と脊髄反射で言う俺。もうちょっとプライバシーというものに気を配れ。 玲はドアから離れ、椅子に腰掛ける。とりあえず、お茶を出す。 麦茶が無いので甜茶で我慢してもらうことにする。少し熱く、湯気も出ている。 玲の前へコップを差し出す。甜茶の出す少し甘い匂いを不思議に思いながら、ふーふーして口に含む玲。 こくん、と飲み干す。少し頷き、またふーふーする。少し、いや、結構可愛い。 俺は向かいの席に座り、自分のコップに甜茶を注ぎ、質問する。 「で、今日は何の用なんだ?」 テーブルに肘をつき、顔を手で支えながら、いかにも不満たらたらな格好で。 玲は気にも留めず、答えの動きを示す。 −デートに行こう。− がこん、と顎が外れる音がした。急いで手を使って顎を元に戻す。 がちん、と顎がはまる音がした。急な事態で欠いた冷静さを取り戻すため、深呼吸。 すー、はー、はー、はー、はー、げふげふ。訝しげな眼で俺を見る玲。 俺はごほん、と咳払いをし、言う。 「どこへ?」 これは重要だ。場所によって、今後の行動が違ってくる。 玲は考える。考え込む。ずーっと思案に耽る。俺はおそるおそる聞いてみる。 「もしかして、考えてなかったのか?」 即座に頷く玲。最近はなってなかった頭痛がしだす。 俺は腕を組み、最適な場所を考えてみる。玲は明後日の方向を見ながら、思考の海を漂う。 暖かい日が差し込み、窓から入り込んだ無邪気な風が俺らを撫でていく。 10分ぐらいは経っただろうか。俺は一つ思い当たって、提案してみる。 「そうだ、ちょっと行きたい場所があったんだ。行くか?」 思惟の草原をさまよっていた玲ははっとして我に帰り、小さく頷く。 良い日旅立ち。いや、本当に旅立つわけじゃないけど。ピクニック日和。 デート、というより、むしろピクニックになる、今日という日。 少しあがってきた太陽が、俺らを優しく見守っていた。わずかな風が、俺らを後押ししてくれた。
前へ  次へ 長編へ  トップへ

[★高収入が可能!WEBデザインのプロになってみない?! Click Here! 自宅で仕事がしたい人必見! Click Here!]
[ CGIレンタルサービス | 100MBの無料HPスペース | 検索エンジン登録代行サービス ]
[ 初心者でも安心なレンタルサーバー。50MBで250円から。CGI・SSI・PHPが使えます。 ]


FC2 キャッシング 出会い 無料アクセス解析