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翌日の朝。一緒に登校する。 肩を組んで。玲は俺に密着。俺はMDを聞いて周りの揶揄を遮断。 ♪一万年と2千年前から〜♪ 歌を聴いていても、今の俺の状況と同調して、顔が紅くなってしまう。 MDを換える。カシャッと音を立ててMDが出る。鞄から他のMDを取り出し、セット。 ♪色褪せた季節を〜♪ これなら大丈夫だろう。そのまま、人の塊を粉砕しながら突き進む。 「さあ、白状しろッ!!」 教室にて。男子が俺を囲む。女子は玲を囲む。 人は2点に集中。そりゃ肩組んでれば聞きたくもなるかもしれんが、これはさすがに… 「テーブルの上にはアレがあったらしいじゃねーかっ!」 …誰から聞き及んだのだろうか。周りの知らなかった人間が即座に反応。俺に喚きたてる。 「ま、マジか?い、いや、し、知ってんだよォーっ!」 「うおぉぉぉ!ヤったのかてめーはよォーっ!?」 「マジムカつくぜエェェェ!!クソックソックソッ!!」 「二人の関係は今どうなってるんだァーッ!?答えろォーッ!!項貴イィィッ!!」 机を蹴りだす者、頭を抱えて絶叫する者、鼻血を出して倒れる者、反応は様々。 どっかで聞いたことのあるような台詞を並べる諸君、少し静かにしてくれないか…。 女子のほうは女子のほうで甲高い声を上げている。 俺に群がる男子の隙間から玲の手が動いているのが見える。淡々と答えているのか? 授業中でさえ、ニヤニヤやギロリの的。先生までニヤニヤしてるのは何故だ? 一番酷いのは古典の時間、伊勢物語をやっていた時。 「男は、女を盗んでいくわけですねー。恋愛物として、かなり高質ですね。  はい、というわけで今一番恋愛がハイクオリティーな空深さんにノロケてもらいましょうか?」 と笑顔でのたまう先生。玲は立ち上がり、どこから買ったのか、小さなホワイトボードと黒いペンで一筆。 校庭に埋めた樹のこと、お弁当のこと、昨日のこと、などを事細かに。 全員に見えるように、わざわざボードを掲げて一回転する玲。 話がひとつ展開するたびにどよめく聴衆。失敗した、と頭を抱える先生。 撃ち出したらちょっとやそっとじゃ止まらないぜキミのマシンガントーク。 チャイムが鳴っても続けようとする。先生からストップの指示。肩を落とし、席に座る玲。 その間、俺はずーっと敵意の視線に晒されっぱなし。空気圧縮されたように縮こまる俺。 昼休み。教室は俺と玲以外居ない。 他のクラスメイトは全員、俺と玲の樹を見に行っている。『あやかりたい』者続出だそうだ。 俺は玲から渡された弁当を食べながら、玲を見つめる。 玲は黙々と食べる。口がもくもくと動く。 食べ終わった弁当を机へ置き、玲を正面に見る。 俺の視線に気付いたのか、玲は俺のほうを向く。 「今日の古典はさすがにやりすぎじゃないか…?」 訊いてみる。玲は勿論首を横に振る。まだまだ足りない、とジェスチャー。 諦めた方がいいのかもな、と嘆く。るるるーっと眼から水を流しながら窓の外を見る。 と、窓の外から何かが飛んできて俺の顎に命中。顎を押さえて悶絶。 何が飛んできたんだ、と思って飛んできたものを涙眼で見てみる。箱。何か細長い。 俺はしゃがみこみ、箱の蓋を開けてみる。 中には藁人形と俺の(恐らく盗撮)写真、そしてその両方を貫く五寸釘。丁度左胸の位置。 −丑の刻参り、かな?− 玲はボードで訊いてくる。絶望した、嫌がらせの黒さに絶望したッ!! 玲は俺の上から覆いかぶさるように箱の中を見ている。要は、背中越しに隆起が当たっているのだ。 固まったまま動けない俺。とりあえず、箱の蓋を元に戻す。かぽっと音を立ててはまる蓋。 箱はとりあえず燃えるので燃えるゴミへ。月、水、金が回収日だ。 クラスメイト達がドタドタと戻ってくる。皆、息が荒い。俺の呼吸も、なぜか早くなる。 「ね、ねえ、(ハァハァ)は、箱!(ハァハァ)どう、したの!?(ハァハァ)」 息を整えてから言えよ。訳が分からない。 「捨てたが?そこのゴミ箱に入ってる。」 教室の隅のゴミ箱を指差しながら答える。 女子たちがゴミ箱に群がる。なんとも面白い光景だ。 あまり形を崩していない箱を取り出す。中身を確認、安堵した様子。 「で、それはなんなんだよ?」 質問。クラスの女子がビクッとしてこちらをそろーっと向く。 皆が皆、苦笑い。男子は箱の中身を後ろからのぞきこんで、ぎょっとしている。 「あ、あはは。なんでもないのよなんでも!」 一人の女子が笑いながら手を振る。しかし、声が裏返っている。 どうも信用できない。何故か呼吸が早まる。他の女子が続ける。 「そ、そうよ。決して、皆で昨日の夜に近くの神社に2時頃行って呪いの言葉を吐きつつ五寸釘打ってないわ。」 静寂。 放たれた言の葉に気付いた他の女子がポカポカ叩く。なんとも可愛げのあるリンチ開始である。俺は笑いながら言う。 「ははは。そんな迷信、効く訳が…ぐっ!?」 胸を押さえる。左に鈍痛。それも滅茶苦茶強い。痛い、痛い、痛い痛い痛い痛いいたいいたいいたいいたい。 眼が限界まで開き、歯を食いしばる。息が荒くなる。はっはっはっ、と犬の呼吸みたいに。 すぐに意識が朦朧としだす。そのまま、地に伏せる。うっ、ぐっ、と押し殺した声が喉から漏れる。 女子達は俺の異常に気付く。男子はすぐに先生を呼びに猛ダッシュ。 玲は、俺のすぐ横でしゃがみ、泣きそうになりながら肩をゆする。 驚いている女子を見、動揺する男子を見、涙を流す玲を見て、俺の意識は闇へ沈んだ。
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