前へ  次へ

休日の朝。9時起床。布団から這い出し、背伸びを一回。 大きなアクビをして、陽をさえぎるカーテンを開ける。 色々なものがあふれている部屋を見る。一つ、不自然な旅行鞄があった。 不可解に思いながらも机の携帯を見ると、光がともっていた。メールだろうか。 開く。玲からのメールが4通。本文だけをささっと見る。 「私、空深玲。今、駅に居るの。」 「私、空深玲。今、キミのアパートの前に居るの。」 「私、空深玲。今、キミの家の扉の前に居るの。」 …某羊の人のマネか?最後の4通目を見てみる。 「私、空深玲。今、キミの布団の中に居るの。」 思考回路停止。反射で動く。 「なっ」 後ろにある布団を振り返り、 「なんだっ」 不自然に膨らんだ布団を掴み、 「てーっ!?」 通常では出せない力で引き剥がす。 ピンクの地にうさぎの絵柄のパジャマで、白いアザラシのぬいぐるみを抱いて眠っている玲が居た。 今にも昇天しそうなほど、幸せそうな寝顔で横になっている玲。 理性がはちきれそうになるのを抑え、台所へ。 休日はいつもパンと決まっている。卵をゆで、レタス、トマト、キュウリを切り、コーヒーを淹れる。 トントントンと、包丁とまな板があたる軽快な音。コポコポと鳴るコーヒーメーカー。 その音に反応したのか、半分寝ている玲が台所へ現れる。 −おはよう。− 眠たそうな眼をこすりながらも、手話はきっちりとする玲。 「あ、あぁ。おはよう。」 ゆでたまごを見ながら、答える。浮かぶ質問は後回し。 レタス、トマト、キュウリを皿へ盛り付け、マヨネーズ、マーガリン、ハムを冷蔵庫から取り出す。 いつもは一人で食べるテーブルへ、野菜の皿とマヨネーズなどを置く。 玲は顔を洗ってから椅子を持ってきて行儀良く座る。 俺は二人分のコーヒーをカップに淹れ、スティックシュガーと牛乳を持ち、椅子に座る。 玲へコーヒーをさしだす。コーヒーカップを手に持ち、ふーふーしながらのむ玲。 「ブラックで大丈夫なのか?」 自分のカップにスティックシュガーと牛乳を入れながら訊く。 −大丈夫。苦いのは慣れてる。− 事も無げに答え、パンを一切れとり、マーガリンを塗る玲。 俺はトーストにするため、パン一切れを持ちオーブントースターへ。 玲はマーガリンを塗ったパンの上に、レタスなどの野菜と、ハムをのせ、マヨネーズを塗る。 その動作が、朝見た寝顔と全く違うイメージで、少し戸惑う。 例はサンドイッチを小さな口で「はむっ」と食べる。 トーストにマーガリンを塗りながら、俺は玲へ質問。 「して、今日はどうした?朝っぱらから布団の中に居るとは…」 玲は口を動かしながら、手も動かす。 −キミのご両親に挨拶に来たつもりなの。でも、居ないようで、ね。− 動きが止まる。コーヒーを飲もうと思ったが、やめておく。絶対に吹く確信があった。 玲は飲み込み、再びサンドイッチを口へ。 「…居なかったから布団にもぐりこんだのか…」 頭を抱える俺。玲は口の端についたマヨネーズをぬぐい、ティッシュで拭く。 −そう。キミの寝顔を見ていると、かわいくて。− 俺の頭の上から10tと刻まれた分銅が落ちてくる。頭を更に抱える。 玲は何か悪いことを言ったのだろうか?という感じで首をかしげる。 「んとな、男に対して『かわいい』ってのは、その、ちょっと、な?」 分銅の乗った頭をなんとかして上げ、玲に言う。 −? 褒められて嬉しくない人なんているの?− 真顔で言う玲。落胆の手で顔を覆う俺。 「違う、違うんだよ。その、方向というか、ベクトルと言うか。」 必死に説明する俺。食事なんて忘れている。 −そうなんだ。分かったよ、気をつける。− いつもと変わらない無表情で手を「ぽんっ」と叩く。 俺は既にぬるくなったコーヒーを飲み、ほっと一息。 そこで、玲が何か思い出した様子で部屋へ。旅行鞄をがさごそと漁る。 鬼が出るのか蛇が出るのかとびくびくしながら玲を見る。 玲が何かを手に持って帰ってきた。それを見て、絶望した。 避妊具。何?女が買うものなのかそれは?ってか朝からヤる気まんまん?っつか何日目ですか俺ら。 −朝は男性が元気になるらしいって聞いたんだけど?− ある意味な。あいにく、もう鎮まってるって。 「いや、そりゃそうなんだが。早くないか?」 至極当然な質問をしてみる。…無駄な予感がする気がするが。 玲は最後の一欠けらを口に入れ、答える。 −時間なんて関係ないよ?− 持病、といいたくなるほど頻発する頭痛。肉体的ではない、が。 なんども頭を抑える仕草をする俺を心配したのか、玲が近づいてくる。 おでことおでこをくっつける。誰も居ないのに顔が発火する。 離れ、無表情のまま玲は言う。 −熱はないみたいね。あとでおかゆ作ろうか?− 不必要の意思を示すため、首を横に振る。玲は少し残念そうに俺を見る。 「で、今日はどうする?」 食事の後を片付け、玲に聞いてみる。 玲はすこし考え、手話で答える。 −一日中、一緒に居たい。− その動きの意味に、どきっとする。何か、胸が締め付けられるような。 日光が差し込み、明るい部屋の中。清純な風が入り込む。 −その、してくれなくてもいいよ。一緒にいるだけでいいから。− 少し眼を伏せながら、玲は手で意思を示す。 俺は立ち上がって、玲の後ろへ回り込み、抱擁。 一瞬、びくっと身体を震わせる。しかし、すぐに俺に身体を預ける。 「すまん。まだ、覚悟が、な。でも、そう遠くない、いつか。」 横へ身体をずらす。 玲の顔をこちらへ向ける。 浅いキス。朝の空気もあってか、爽やかな感じがした。
前へ  次へ 長編へ  トップへ

[★高収入が可能!WEBデザインのプロになってみない?! Click Here! 自宅で仕事がしたい人必見! Click Here!]
[ CGIレンタルサービス | 100MBの無料HPスペース | 検索エンジン登録代行サービス ]
[ 初心者でも安心なレンタルサーバー。50MBで250円から。CGI・SSI・PHPが使えます。 ]


FC2 キャッシング 出会い 無料アクセス解析