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起床。少し雲が多く、薄暗い空。今すぐ雨が降りそうだ。 現在朝の6時50分。朝食を摂る暇はないため、ウィダーインゼリーで済ませる。 洗濯物は昨日のうちに洗って干しておいたため、中に入れてたたんでおく。 携帯が光っている。開き、メールを参照。 差出人のアドレスに見覚えは無い。タイトルも無い。本文には一言。 「偽善者」 朝から陰鬱な気分にさせてくれる。 鞄を背負い、玄関のドアを開ける。いつもより激しい音を立てて閉まるドアに鍵をかける。 教室。授業中。周りを横目でちらちら見てみる。皆はいつも通りだ。 今朝のメールは誰が送ったのか?クラス内?それとも他の? 視線に疑念が混じる。全ての人間があくどい意思を持っているように見える。 影で笑っているのかもしれない。根も葉もない噂を流しているのかもしれない。 そう考えると吐き気がする。不安。胃の内容物をぶちまけないと、落ち着かない程。 考えないようにしても、心の片隅に残る。忘却の波で流しても、必ずこびりつく。 過去にも、こんなことがあった。ふとしたきっかけで現れる、なんとも形容しがたい、漠然とした不安。 玲―つまり、想い人―の姿を見たら、本来ならば疑念や不安などどうでもよくなるはずだ。なのに一向に晴れない。 青空を隠す暗雲。風は吹いているのに去る気配はない。心の暗雲も、また然りだった。 昼休み。教室で玲が持ってきてくれた弁当を一緒に食べる。 オムライスに、ポテトサラダ。鳥のから揚げに、リンゴ。 美味い。玲を見て、笑顔で返し、食事に集中する。 玲は俺を見ながら、少しづつ自分の弁当を口に運ぶ。眼が穏やか。 その眼を見ていて、朝の気分がぶり返す。一瞬、箸が止まる。 −大丈夫?− 手話で語りかける玲。穏やかな眼に、かすかな心配の色が宿る。 「あぁ、大丈夫だ。朝にちょっと、な。」 少しお茶を飲みながら、気を落ち着かせて答える。 −どうしたの?− 玲は手話で訊く。さらに心配の色が強くなる。すでに穏やかな眼ではない。 周りのクラスメイト達は俺らを見ながらニヤニヤするばかり。俺の気分には気付かない。 俺は問題のメールを見せる。玲は眉をひそめた。俺はつぶやく。 「俺な、こういうのに弱いんだ。」 玲が携帯から俺のほうへ眼を向ける。少し顔を伏せながら言う。 「不安、なんだ。俺がしていることが、本当に皆が喜んでいるのか?」 箸を置く。すでにほとんどを食い尽くした弁当を机の上へ。 俺は続ける。もはや独り言。 「俺に気を使って、よろこんでるフリをしてるんじゃないか?ってね。」 玲は俺を見据えたまま。背中越しに窓を見る。 「今朝のメールで、その隠された不安が急に浮かんできて、少し、な。」 俺は窓の外を見たまま。少しづつ、雨が降ってきた。 玲は、何も行動を起こさず、俺を見つめていた。 そんな状況が、数分。きまずい。雨がひどくなり、何も見えない外を俺はただ何をするでもなく見ていた。 状況は一変する。何を思ったのか、玲は急に立ち上がる。 視界の隅で見ていた俺は、何をするのだろう?と思って玲を見ようとした。 顔が玲のほうに向いた時、既に玲は目の前に居た。 玲は俺を抱く。ちょうど、顔が他の女子より小さい二つの隆起に当たる。 腕で優しく抱え込まれる。みるみる赤面していく俺。 玲は、何も言わない。それでも、伝わる。 −いいんだ。私は、本当に嬉しいから。− そう言っている、思っている気がした。 確認する気にはならなかった。推測ではない、確信。 誰が送ったのか。もうそれもどうでもよくなった。 誰がそう思っていても構わない。玲が、嬉しいのなら。それでいい。 玲は俺から離れる。今度は俺が玲を抱き寄せる。 耳元で、「ありがとう」をささやく。音量は小さいが、想いは大きい、ささやき。 玲は何か仕事し終えたような満足した顔で俺によりかかっている。 他人の眼は関係ない。俺は、俺なりに玲を愛していく。それでいいと、改めて思った。
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