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玲の母親は、俺に怒号を飛ばされたのを玲に愚痴ったらしい。 『私は、娘を想って・・・』と。救えないというか、なんと言うか。 玲は黙って聞いていて、何も伝えずに自分の部屋に戻ってきたそうだ。 メールのやりとりをしつつ、少し顔が熱くなっているのに気付く。 明日、まともに話せるかどうか、不安だ。 翌朝。教室へ時間ギリギリで入る。 中学の頃からずっとそうだったため、癖が抜けない。 クラスのほとんどは着席済み。もちろん、玲も。 朝のホームルームは眠い。あのアルファ波増幅器のせいで更に眠い。 そこで重大な事実に気付く。・・・昼飯作るの忘れた。 中学は給食。朝は遅く起きるため、昼飯を作る時間が無いのだ。習慣も無いし。 売店で買えば良いか、と考えたが財布も忘れている。一気に暗い雰囲気が俺を取り囲む。 昼休み。 俺の腹は極限状態。周りからは弁当のおいしそうなかおりが。 胃酸は溜まる。胃を溶かしそうなほどに。たぷたぷ言ってるよ。胃酸で。 そんな時、右肩が叩かれた。振り向くと、玲が二つ弁当を持って立っていた。 周りは気付いている、のだろうか。少し目つきがにやけてる。頼むからやめろ。『まだ』違うんだ。 しどろもどろになりつつ、言ってみる。 「・・・それは、あれか?手作り弁当ってやつか?もしかして俺に食べさせるために?」 玲はこくりと頷く。右手に持った、少し大きめの弁当を俺に渡す。 顔が熱を帯びる。そして幸運に感謝しつつ、弁当をいただく。 美味い。美味いぞ。腹に溜まった胃酸で消化するのがもったいない程だ。 周りの目を気にせず、一口一口味を噛み締めながら食べる。 −美味しい?− 手話で聞いてくる。ハムスター並みにコメをほおばって、GJの手。 ほっとしたため息をつく玲。やはり普通の女の子だな。 昼休み中、なんともいえない視線を感じたが気にしないことにした。 放課後。皆は鞄に荷物をつめ、帰る支度をしている。 玲は荷物を机の中へ押し込み、薄くなった鞄を持って帰った。 優等生な顔に似合わず、置き勉ですか。ってか一緒に帰らせろ。 「ねえ、羽里くん?」 後ろから急に声をかけられた。声のした方向を向くと、4,5人の女子が。 昼休みの視線はこいつらか?と思いつつ、適当に反応。 「何か用か?」 向こうは何か言いにくそうだ。やはり嫌な予感。昨日の夜と同じ。 「その、空深さん、のことなんだけど、ど」 「どうして仲いいのか?・・・ってとこか?」 「!?」 眼を見開き、眉は下がる。驚き。こいつらも同類か? 不愉快になったらすぐ眉を寄せ、ガンを飛ばしてしまう癖はどうにかしろ、俺。 「で、それがどうかしたのか?」 「いや、その。」 先頭を切って話していた女子が下を向く。やはり言いにくそうだ。 代わりに、いつのまにか近くに居た男子が言う。 「手話を、教えて欲しいんだ。」 ・・・これは予想外だ。まさか、手話を教えて欲しい、とは・・・。 ふと周りを見渡すと、ほぼクラスの全員が俺の周りを囲んでいた。 そんなに気になるから早めに言えばいいのになあ。 「とりあえず、俺が手話を覚えるのに使ってた本を明日持ってくる。それでいいか?」 提案。皆はうなずく。なぜか握手を求める者も出てきた。とりあえずするが、意図が不明。 少し嬉しい。 家へ帰る。やはり誰も居ない。 自分の机に鞄を放り投げ、ネクタイと上着をかけ、リビングへ。 テーブルの上に朝はなかった紙が一枚。昔に見た字。 −項貴へ。  今日の昼、離婚が決定しました。  裁判などの、煩わしいことも終わっています。  あなたの姉の親権は、私がとりました。  明日、あなたを引き取って、ここから引っ越します。  荷物をまとめておいてください。  母より− 読み終わった直後に引き裂いた。怒りは髪が逆立つくらいだ。 「帰ってくるなら飯ぐらい準備しろよ糞が。ってか離婚?ナメてんのか?  散々迷惑かけてきて、てめーの都合で愛着のある友人達と離れろってか?」 思わず独り言。唐突に突きつけられた『理不尽』。俺の最も嫌いなもの。しかも実の母から。 怒りや失望、侮蔑、絶望は常人のその比ではない。 色々なものにぶちあたりたい衝動を抑えつつ(とはいえ顔にはモロに出ているが) 夕飯の支度。今日は何もやる気がおきないのでカップめんで済ますことにする。 お湯を注ぎ、蓋をする。3分は暇なので、ふと携帯を見ると、一通のメールが。 from:空深 玲 title:(no title)
お弁当、美味しいって言ってくれてありがとう。 少し、頑張ったんだ。朝早く起きて、君のために。
怒りや侮蔑は心の底に沈んだ。またぶり返してくるだろうが、それよりも重大なことが出来た。 言わなくては。 伝えなくては。 今、言わないと後悔する気がした。 今、伝えないと後悔する気がした。 即座に返信。題名は無視。本文に、そのまま書く。 「お前が、好きだ。」 そのまま送信。送っても、気は晴れない。もしかしたら、もう二度と――――― 考えるのはやめた。全ては『明日』だ。 1時間、2時間経っても返信はこない。『それでいい』。 『伝えること』。それが大事だった。成就してもしなくても、構わない。期待はしない。 期待しては、失敗した時に傷つく。成功したら、その時は二人が傷つくかもしれない。 だから、期待しない。『決別』に失敗した時に備え。
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