午後の二時、一日でもっとも熱くなる時間帯で日が燦々と降り注ぐ中、俺は遅めの昼食をとっている。チャーハン美味い。 起きている茶は英語の描かれた薄い茶色のタンクトップに膝までの濃い茶地に明るい茶色のチェックのスカートを履いている。 茶はどこかで見たようなテレビ番組に釘付けだ。 「ほえー」 テレビの中の人が何かする度に手をパチパチと叩いたり眼をキラキラさせたり感嘆の声を上げたりする。 テレビからは「ジャー○ネットジャ○ネット夢のジャ○ネットたか○」と聞こえる。通販を見ているのだろう。 時折電話をとってどこかへ電話をしているのは気のせいだろう。 たまに「間違えましたすいませんすいませんすいません」と聞こえるのも幻聴だろう。 「で」 満足げな顔で「はえ〜」と気持ち良さそうな声を出しながら悦に浸っている茶の向きをこちらへ向かせて、 「何してた?」 「注文してたー」 「何を?」 「帽子と、テレビと、掃除機」 頼みすぎじゃないか? とりあえず、俺は後で消費者生活センターへかけあうことを決めた。クーリングオフってヤツだ。まさか使うとは思わなかったけどな。 にこにこしてる茶を、眉間に皺を寄せ、メガネを外し、眼を細めて睨みつけてみた。 びくっ、と身体を震わせだんだんと涙眼になり眉がハの字になる茶を見て、罪悪感がズキズキと心に響く。 「だ、だって、掃除機なかったよ?」 涙を溜めたウルウル眼をこちらに向け、両手を大きく使って必死に茶は言う。 確かに、掃除機は無い。先進国にしては珍しいと思うが、あいにくこの部屋はあんまり広くない。 「箒で充分だろ?」 「うぅー……で、でも! 3万円だよ!?」 立ち上がり、拳を握り力説をする茶色。誰に演説をしてるんだお前は。 ただ、俺の目線はその下にいくわけで。えぇ、またですよ? 俺の網膜は純白の映像を完璧に捉え、瞬間的に脳細胞に焼き付ける。記憶に固着させ、永久保存の処理を施し、記憶の中心に据えておいた。 「お前、またか」 「ほえ?」 俺は眼を閉じ、ふぅ、とため息をつきながら首を横に振る。 「下半身に注目」 「!」 茶は、ずばっ、と両手で問題の箇所を隠す。いつものトロさはどこへやら。 顔はすでに真っ赤で、こちらをこれ以上溜まらないんじゃないかというほど涙を溜めた眼で睨みつけている。正直、全然怖くない。 「見た!? 見た!?」 「あぁ。 すでに網膜に焼き付いてるから安心しろ」 「あうぅ」 「やめなさい」 後ろから明瞭かつ重い声が聞こえ、俺の延髄に形容しがたい衝撃が走った。ああ、眼がチカチカするぅ。何しやがるんだ。 首をさすり、後ろを恨めしい表情を作って身体ごと振り返るといつの間に起きていたのか、そしていつの間に後ろに居たのか分からないがとにかく黒が居た。首にはシルバーネックレスがあり、上は半袖黒地で縦に二本、十字架のラインが入っているシャツ。下はロングスカートで裾にはフリルがついていた。 「茶に何をしていたの?」 「何もしてねぇ。 俺は単に機会を逃さなかっただけだ」 「……あぁ、かわいそうに。 あなたは今、私に亡き者にされる運命にあるのね」 と、手を頭に当てて天を仰ぎ、そしてどこから取り出したか分からないが小太刀を握っていた。 さすがに冗談だろう。黒がこちらを獣を狩る狩人の眼で見ているのは気のせいだろう。 薄ら笑いを浮かべているのも幻覚だ。 何もかも夢だ。 「……まあ、さすがにやりすぎだと思うから」 黒は小太刀をまたどこかへと消した。どこに消えてるんだ。もしかしてコイツには四次元空間につながっているのだろうか。謎だ。 「乙女の秘密よ」 黒は口に手を当て、口元をゆがめ首を一センチほど傾けて言った。眼は笑っていない。訊いたら殺される確信が俺に芽生えた。 茶色が「もーいーよー」と言ったのを合図に、俺はテーブルへ振り返り食事を再開した。 あ、冷えてる……。だが冷えても美味いのが真のチャーハンの証。まだ美味いぞこのチャーハンは! 誰にも否定はさせない。むしろしないでくれ。後生だから。 「しかし、あなたの料理は美味しいわね」 気配を消すのが得意技だとしか思えない黒がスプーンを俺から掠め取り、チャーハンをぱくつく。 茶はちゃんと下を穿いて、顔の赤みは「ほのか」と形容できるぐらいまでに落ちついてテーブルの対面に座って俺と黒を、ぶすっ、とした表情で見ていた。 風がそよそよと吹き、視界の端っこの黒の髪がサラサラとなびく。 「うん、美味しいわ」 にこり、と黒は笑う。こいつは実は毒舌ではなく腹黒くもなくて、常に自分に素直なのだろうか、と思う。 「じゃあ、あたしちょっと疲れたから寝るね」 笑顔を作った茶は俺らに宣言し、こちらを意識して見ないようにしながら机の上に上り、光って消えた。 その背中はなんとなく物寂しい感じがした。哀愁漂う背中。小太りなら哀しげで、渋けりゃ格好いいんだよな。 空になった皿をステンレスの流しに置き、お茶の入ったポットを持ちテーブルに座った。 黒はベッドの上に座り、こちらを見ていた。そのまま何をするでもなく、俺を見続けていた。……何? 怖いんだけど。先ほどの件もあってさ。 どかっ、と座ってあぐらをかき、俺はお茶を湯飲みへ八割ほど入れ一口飲んだ。 そのまま俺は眼を閉じ、ふぅぅ、と長く細くため息を吐く。直後、俺の背中に柔らかい感触。首に回される細い何か。右の耳に何かの吐息が当たる。 「なっ!?」 俺は思わず叫び、眼を見開き横目で黒を凝視。黒は眼を閉じながら俺の首に手を回し、俺と密着していた。後ろから。 言うまでも無く、俺の背中には幸せな感覚が伝わるわけで。心の中でガッツポーズ。 「あなた、もしかして気付いてないの?」 細く切れ長の眼が俺を見て、艶やかな言葉が俺の耳に侵入する。 ……ん? 「気付いていない」とは? もしかして俺は逆鱗に触れるようなことでもやったのか? 「みんな、あなたのことが好きなのよ?」 俺の思考回路は熱暴走を起こし、強制終了。ピーという機械音とノイズが俺の脳内を支配し、俺の時が止まった。 なるほど、ざ、わーるど。 硬直して微動だにしない俺に対して、黒は、 「少なくとも、私はね?」 俺の頭は熱暴走を通り越して核融合を起こし始め、当然それに耐え切れるはずも無く爆発した。 核融合から爆発までの僅かな時間のうちに超速度で思考をし、なんとかしてひねり出した一言を呟いた。 「冗談、だろ?」 俺がこの言葉を発した直後に爆発―つまりは気絶―したので黒がなんと言ったのかは分からない。 ただ、俺が次に起きた時、俺の問いかけがいかに空しく無駄なものだったかが分かった。 俺が意識を取り戻し、感覚を知覚し始める。右に暖かいものを感じ、左から下にかけて重力がかかっているのを感じた。眼を開ける。 俺は右を下にして横になっているようだ。だが、問題は俺の頭が置かれている場所である。 「気がついた?」 膝枕である。 これはもう喜ぶしかないとは思いもしたが、俺は何事も無かったかのように起き上がる。 「あぁ、なんとかな」 まさか気絶をしている最中にわざわざ俺を膝の上に寝かせたのだとしたらそれはもう確定である。 コーラを飲んだらげっぷが出るくらいにね。黒は正座を崩し、いわゆる「女の子座り」をしてから俺の眼を見据え、答える。 「私の言葉は常に嘘、偽りは無いわ」 黒は常に冷静に、言うことははっきりいうヤツだと思っていた。利害得失は関係なく、思ったことを率直に言うものだと。 ただ、まさかこんな話題までも素直に言うとは思わなかったが、気になることがある。もし、嘘をついてないとするなら、「みんな」とは……? 俺が眉間に皺を寄せ、あごに手を当てながら考え始めたのを見計らって黒は立ち上がり、ベッドに腰掛けた。 黒は口元に手を当て「ふふふ」と妖艶な微笑みを浮かべながらこちらを見た。 「まあ、信じる信じないはあなた次第よ」
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