「うえぇー……」 「にがああぁぁぁい!」 「そ、そうですか?」 買い物から家に帰ってみると、桃、群青が文字通り苦い顔をしていた。 二人とも、眼を強くつぶり、眉を寄せ、舌を出している。二人の手には粉薬があった。 白は二人を見て、眼を少し見開いている。あれ? なんで二人とも変な顔をしているの? 心中の代弁。人、それを妄想という。 「何をしている?」 俺は買ってきた食材を冷蔵庫へ乱雑に放り込みながら聞いてみる。 「この『かんぽー』をぉ……」 群青がなんとか声を絞り出して答えていた。顔は相変わらず苦そうだ。白が群青の台詞に付け加える形で、 「えぇ。 本当は私が飲もうと思っていたんですけど、お二人が……」 「うー、苦いいいいぃぃ……」 「と、こういう状態なのです」 言葉の間に挟まれた、そこらへんでのたうちまわっている桃のうめき声を気にしつつ説明をした。 俺は冷蔵庫に食材を詰め込み終え、三人が座るテーブルへ。既に桃と群青はダウンし、ばったりと仰向けに寝転んでいる。 心なしか顔が青白いし、時たま「うああぁ」とうめくのは気にしないでおく。エクソシスト呼ばなきゃいけねえか? テーブルの上にぶちまけられた粉末は黄土色をしている。袋に書かれているのは、販売元の「てめり」の名前と、漢方薬の名前。 「あぁ、麻黄湯か。 飲むと死にそうになる漢方のうちの一つだな」 「ま、まおうぅぅぅ!?」 群青がなんとか起き上がってつっこんでから、またぱったりと倒れた。子供を連れ去ったりはしないから安心しろ。 芸人魂爆発。うん、ここは褒めるべきとこなのかもしれない。なんというか、面白いやつだ。 桃はずっと「うーん、うーん」とうめいている。悪夢でも見ているのか? 顔が火照っていて、なおかつこの体つき。なにそれなんてエロマンガ? 「はい。 ちょっと熱っぽいので」 白が居ずまいを正しながら答え、麻黄湯の粉を一気に口へ入れた。それを見るだけで胃がムカムカする。 うああ、胃酸が俺の口へ戻ってくるぅぅ。それといとも容易く大量の水で飲み干す白。見てるだけでイヤだ! かなり度胸のあるのか、慣れているのか。両方なのかもしれない。どちらにせよ、あの麻黄湯を一気に飲み干せるのは賞賛ものだ。 「ん? 熱っぽい?」 そういえば、白の頬がほのかに赤い感じがする。あらためて白の様子を見てみる。 透き通る白の髪。首には光り輝く白いネックレス。何も装飾のされていない、無地で白のTシャツに、白のロングスカート。全部が純白で統一されていた。 儚い。 俺が感じた第一印象だ。 っと、その前にすべきことがあるじゃないか。何やってんだ俺は。 白の隣へと歩いていく。そして、俺は白の前髪を手で上げ、額と額をくっつけてみる。 「!?」 白が驚いたが気にしない。 「……そうだな、確かにちょっと熱っぽい」 額を離し、白に俺が羽織っていた上着を着せる。白の顔が火を灯したように紅くなっている。さきほどの紅さとは比べ物にならない。 「な、大丈夫か?」 「あ、あ、だ、大丈夫、です、はい」 うつむきながら、大丈夫、大丈夫、と呟き続ける白。どう見ても大丈夫ではない。 俺は急いで、冷蔵庫の隣の棚に置いてある救急箱を取りに行った。とりあえず、市販の風邪薬と体温計を持って、と。 「ど、どうだった!?」 「え、あ、あの?」 「……うらやましくないんだから」 テーブルの方が騒がしい。 何か嫌な予感がした俺は、気配を消し――たつもりで――ゆっくりとテーブルへ歩みを進める。 白に、倒れていたはずの桃と群青がつめよっていた。後ろに立っても気付かない。 白は気付きこちらに視線をやったが、俺がジェスチャーで「気付かない振りをしてくれ」とアピール。 そして、大きく息を吸って、 「なあにしてんだ、このアホ!」 二人の頭を、ぽかっ、と叩いた。本気で殴ると、二人とも泣いてしまうので軽く、軽く。 「あうー」 「な、なにすんのよっ!!」 あれ? 軽く殴ったはずなのに二人とも涙眼だぞ? 「ねー、ひどいよねー、群青ちゃーん」 「そうよね、ひどいよね、桃ちゃん」 手を組んで脇で俺に恨めしそうに視線を送る二人を華麗にスルーをしつつ、白に薬と体温計を渡す。 いくら人型とはいえ、鉛筆。人間用の薬が効くかどうかは分からないが、しないよりはマシだろう。 「こ、これは?」 「一応、薬と体温計。まずは体温を測って、熱があったら飯一杯食って、薬を飲んでゆっくり寝ろ」 「で、でも」 「使いたいならベッド使っても」 といいかけて気付いた。頭をガリガリとかく。 「って、寝たら戻るんだったな」 少しバツが悪い。頭をかき、自己ツッコミで事を流す。 「あ、あの、ありがとうございます」 白が丁寧にお辞儀をした。 「いや、いいってことよ」 俺は顔の前で手を左右に平行移動し、かるく会釈して問題の二人を相手にし始める。 「で、何してたんだ?」 フリルのついた、桜の花びらの模様が描かれたワンピースを着た桃。 深い青の髪留めに、群青色で、葵の模様―かなり渋いぞコレ―のタンクトップに、デニムのジーンズの群青。 それが二人して頬を膨らませ、文句を垂れている。先に文句をぶつけてきたのは、桃だ。 「だあってえ、熱測るのにわざわざ額と額をくっつけたからあー」 ぶはあっ、と後方斜め四十五度から盛大に飲み物を吹いた音がした。 後ろで「あ、ああ」と声を上げながらふきんをとりに行く物音がしたが気にしないことにしておく。 あれ、見られてたのか。一応、弁明しておこう。 「手をあててもよかったんだが、手先が冷えてたから熱があるかどうか分からなかったんだよ。ほら」 と言って、桃の頬に手を当てる。ほわー、と言う桃。俺は「つめたっ!?」みたいな反応を見せると思ったんだが。 ちっ、つまらん。 「な、なんだ、そんな理由だったの」 横から群青が俺に言う。群青はいつも、真正面から俺を見ない。視線の先に割り込むと、常にそらすのだ。今もそう。 「群青も、触るか? ほら?」 と、手を頬に触れさせようとすると、ぱしぃっ、と、払われた。 「な、なんであたしがお前の手なんかを……! 汚らわしい!!」 酷い言われようだ。一応、帰ってきたら手洗いうがいは欠かさないのだが。 「で、でも、ちょっとだけなら……」 俺が首を斜め後ろに傾け、るるるーと悲しみに浸っていると、差し出した右手に暖かさが伝わった。握られていた。 「……本当に冷たい……た、確かめるためだから」 睨まれた。その視線に気圧され、「お、おう」としかいえなくなる俺。 「じゃあ、あたしもーっ」 といって、再び俺の左手を握る桃。両手に花、とはこのことか? とりあえず、テーブルの前に座る。桃と群青にはさまれる形。ふきんで拭き終わった白がこちらを見て悲しそうな笑みを浮かべ、 「では、私は寝ます」 とだけ言って、眠ってしまった。 誰も何も言わない時間が流れた。気付けば、桃と群青が俺にもたれかかっていた。 「だって、身体おおきいんだもーん」と桃。 「桃がしているから私もしているだけ」と群青。 うーん、正直、いづらい。握られた両手は既に離されていたので、とりあえず緑茶を湯飲みへ注ぐ。 茶菓子を取りに行こうと思ったが、二人が動かさせてくれないので、茶菓子無しで緑茶を飲む。 まず熱さを感じ、直後にいやらしくない苦味が口に広がる。緑茶を飲むと、ほっ、とする俺。 非日常ながら、平和な時間が流れていた。
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