色んな非日常と色んな痛みを味わった昨日をすっかり忘れて目覚めたが周りの奴らを見て頭をハンマーで殴られたかのように鬱になる今日この頃、皆さんいかがお過ごしだろうか。 俺は最悪の気分です。誰か俺の身代わりになってくれ。 んで、今日は休みなので家でグータラして過ごしたい。そりゃもーゴロゴロダラダラの権化と化す俺。 ベッドから起き上がり、周りを確認すると、紅の髪を揺らしながら、 「あ、おはよー」 と俺に告げた赤髪の女がエプロンをして台所に立っていた。 昨日の異常事態が夢でないのを改めて確認せざるを得ず、週刊誌の袋とじを開けたオッサンよりも憂鬱になる。 あたりを見回すと、他の女達はいない。どこいった? 「おはよう。 で、他のやつらは?」 「あー、寝てるよ」 「寝てる? どこで?」 「箱」 はい? 「寝たり、失神したりすると鉛筆に戻っちゃうんだよ」 「へぇ」 なるほどね。そこらへんはきっちり色鉛筆なのか。体重をかけるモノをベッドから床に変え、机の上に開いておいた色鉛筆の箱を見た。 きっちりと赤以外の色鉛筆が全て収まっていた。そのまま、洗面所へ行き、顔を洗う。朝の冷たい水が気持ち良い。お湯を使うより、断然眼が覚める。 「今日の朝はっと、お、純和風だな」 「得意なの」 昨日の話では、名前はまだないらしい。お前らは猫か。とりあえず、俺は各人の「色」で呼ぶ事にする。 それ以外に呼ぶものがないしな。とりあえず、目の前の女は赤……というより紅だな。 「紅は早起きだな」 「これぐらい普通だよ」 と、朗らかに笑いながらごはんを綺麗に山になるように茶碗によそう紅。 鉛筆の九十九神――というらしいが詳しくは知らない――である彼女らは、皆色違いの同じワンピースを着ていた。 ワンピースの色は各人の髪の色、つまり鉛筆の色と全く同じ色をしている。 俺は飯をかきこみながら、向かいに座って礼儀正しく食事を取る紅を改めて観察した。 ショートカットでサラサラした紅い髪に、大きな紅い瞳。華奢な身体つき、見た目は高校生くらい。 「美人」というよりは「可愛い」に近い。ボーイッシュでどちらかといえば恋人より友達にしたいタイプのようだ。 俺にじろじろ見られているのには気付いているが、ごはんを飲み込むまで何も喋らない紅。 一口で何十回か噛んだあと、こくんと飲み込み、こちらを見る。 「ん? あたしの顔になんかついてる?」 「いや、別に」 「ふーん」 会話もそこそこに、俺と紅はもくもくと食事に集中する。どうも、空気が悪いなあ。他の奴らはまだ寝てるし。 と、そんな時。ヴルルルルル、ヴルルルルル、と携帯のバイブが作動した。 なんだこんな時に。俺は箸をくわえながら身体を曲げ、後ろへ手を伸ばしベッドの上においてある携帯をとる。 「ちょっと、行儀悪いよ」 「いーんだよ、気にすんなって」 紅の非難を軽くながし、電話に出る。さーて、鬼が出るか蛇が出るか。 「もしもし」 『あ、もしもし!?』 この声は。 「おぉ、お前はスレンダーな身体と美貌がとりえだが性格が悪く彼氏が出来ても長続きしない我が幼馴染(22)じゃないか」 『なんで説明口調なの? ……そ、そんなことはどうでもいい!!』 ノリツッコミがあまりに自然すぎる。天然の芸人だな。さすが俺の幼馴染。やってくれる。 底抜けに明るく、よく俺とコント紛いのことをしたもんだ。懐かしいな。思わず眼を細める。……じいちゃんか俺は。 「で、どうした?」 『説明するの面倒だから、さっさとウチに来て!』 うーん、どうだろうか。 「……引っ越したから時間かかるぞ?」 『いーから早く!』 ぶち。つー、つー、つー。 ……あの野郎、何を考えてやがる。人に物を頼む態度じゃないな。これだから一週間も続かないんだよ。 心の中で悪態をつきながら俺は携帯をテーブルに置き、再び飯をかきこんだ。 「誰?」 食事の手を止めていた紅が唐突な質問。何か期待してるような口ぶりだ。 「ん? 幼馴染だよ」 「幼馴染……うーん、いいひびきぃ〜♪」 紅の周りがキラキラ輝き始めた。あの眼の輝きなら真っ暗な部屋も煌々と照らせるね。 どうも、好奇心が強いようで。俺は眼を輝かせている紅を華麗に無視しつつ米を咀嚼する。一気に飲み込んで、お茶を腹へ流し込む。 「ごちそうさんっ」 「あたしもごちそうさま。どうだった?」 「うまかった。ちょっと出かける」 「どこへ?」 正直、答えたくない。ついてきそうだ。いや、必ずついてくるな。あの眼からして。むしろ分かっているだろ。 俺は手早く着替え――早着替えは俺の数少ない得意技の一つだ――皮のジャンパーと黒のヘルメットを取る。 鍵を手に取り、いざ出陣、とドアに手をかけた。ドアノブを握った手がつかまれる。 「もぉしぃかぁしぃてぇ?」 俺の手首をギリギリと掴みニヤニヤしながら言う紅。痛い。何かを読み取って欲しそうな紅。痛いからやめてくれ。 「……分かったよ。 連れてきゃいーんだろ?」 きゃー、と奇声を発する紅。 「よく分かってらっしゃるぅ〜♪ ささ、早く行こう♪」 「とりあえず、も一個ヘルメットあるからとってこい」 「はいはーい」 「さて、到着っと」 「……大きいね」 目の前には、かなり広い邸宅が一軒あった。ベージュ色の壁の上には濃い灰色の瓦が置いてあり、松の枝が壁の内側から除いている。 幼馴染の家はここなのだ。なんでも、昔からの地主の血筋とか。俺にはよく分からんが。 俺は構わず、木でできた大きな扉の前に立ち、壁や趣に似つかわしくないインターホンを押す。 ぴんぽーん。がらららっ。どたどたどたどたっ!! ばたんっ!! 「来た!? ……あえて横の女については聞かないでおいてあげる」 ピンク地で、うさぎが描かれているパジャマを着た、黒髪が寝癖でところどころ跳ねている素顔の二十代女が出てきた。 「永遠の十八歳! 訂正しなさい」 「却下。 で、なにがあった?」 「そう、それよ。 入って入って」 電話での狼狽は俺の隣の女によってかき消されたようだ。これは思わぬ僥倖。暴れると手がつけられなくなるからなこのバカは。 俺と紅は無言で入っていく。幼馴染はなぜかプンスカして頭から湯気が出ている。分からん奴だ。 中にはこれぞ和風! と誰もが断言しそうな建物に、錦鯉が数匹自由奔放に泳いでいる池がある庭、細かく手が加えられている植木が目に付く。 その全てに興味津々な眼できょろきょろと見回す紅。どう見ても不審者かおのぼりさんだな。 敷き詰められた石の道を歩き、がらがらがら、といかにも日本風なドアを開ける。 「いやー、古めかしい家ですねー」 「お世辞はいいから。 ほら、こっち」 お世辞ではないようだが。多分、聞きなれているのかもしれん。 長い暗い廊下をてくてくと歩く。紅が俺の服のすそを引っ張った。どうせなら手を握るか腕を掴め。 案内された先は幼馴染の部屋。ドアをがちゃりと開ける。 「あ、帰ってきたよー」 「ま、また、新しい人?」 「よーっし、仲良くなるぞーっ」 「ふふふ、皆、粗相のないようにね」 「……ふ、ふん」 これはこれは、まあたカラフルなワンピースに髪の色だこと。そして襲い掛かる既視感といやな予感。 「こいつぁ、もしかして、色鉛筆かなんかか?」 「あたしも思った」 大きな眼を更に見開いて彼女らを観察していた紅が俺に賛同する。 ポニーテールの茶髪の女がこちらにぱたぱたと走ってくる。背は低い。 「んーん、あたしたちはクレヨンだよー」 「ほぉ、クレヨンか。確かに年月は経ちそうだ」 「親戚みたいなものかな? とりあえず、よろしくねー」 「うん! よろしくね〜!」 「……私に分かるように説明して頂戴」 不服そうな顔をこちらに向けながら俺の頬を引っ張る蚊帳の外な幼馴染は言った。 彼女達はクレヨンの九十九神だろう、とだけ答えておく。クレヨンの九十九神と聞いて、幼馴染は少しの間だけ、思案した。 「……クレヨン? そういえば、確か押入れに」 幼馴染はまっすぐ押入れへ向かい、ガサゴソと漁り始めた。 ピンク、水色、茶、黄緑、群青の女達がじろじろと彼女を見ていた。すげー奇妙。 「あ、確かに数本なくなってる。 ピンクと、水色と、茶色。 あと、黄緑と、群青も」 おー、ぴったり同じだ。 「やはり」 「私達が説明しても、信じてくれなかったんですよ」 黄緑の女が居住まいを正しくして正座し、丁寧に答えた。 説明したのに信じられないとは、幽霊やその他を一切信じないこいつらしいな。 「……」 水色髪の女は下を向いた赤くなっている。具合でも悪いのか? 「タイプかも〜」 ピンクは俺の顔を見るなりそう断言した。なんというか、その、目のやりどころに困る。 「あ、あたしは、べ、べつに」 俺の顔をじろじろみていた群青は真っ赤になりながら顔を背けた。そんなにイヤか? もしくは具合でも悪いのか。 「じゃ、帰るぞ」 俺はきびすを返し、暗めの廊下を歩こうとした。 「ちょっと待ちなさいっ!」 幼馴染のとび蹴りが俺の背中に命中した。久々にドロップキックを喰らったぞこのクソアマ。 ぐおおおぉぉぉ、案外いてぇ、全体重かけて全力でやりやがったな。そりゃ飛び上がってりゃ全体重はかかるが。 俺は眉間に皺をよせて後ろを振り返り、ふーふー、と息荒く必死そうな幼馴染を睨んだ。 「まだなんかあんのか?」 「こいつらを引き取りなさい」 ……いきなり何を言いやがるんだこいつは。 「あたしはさんせー」 紅が幼馴染の後ろからぴょこっと顔を出し、にぃっ、と笑顔で明るく言った。 「あなたはよく分かってくれるわね。 友達になれそう」 「どうかーん」 ……こいつらは何を考えているのか。インディアンと会ったコロンブスやマオリと会ったヨーロッパ人は俺と同じ思いを抱いたのだろう。 と思ってる間に、黒服でサングラスをかけた連中に囲まれた。どうやら、俺は承諾しなければ天へ昇っていかなければならないらしい。畜生。 「わーったよ。 引きとりゃいーんだろ。 じゃ、クレヨンの箱くれ」 「よかったー! やっぱり持つべきものは友達よねーっ」 俺は死にかけてるけどな。 結局、クレヨン達も俺の家に入る事になった。部屋のスペースは足りるかどうかが不安だ。 足りなかったらベランダにでも押し出してやる。できるかどうかは不明だ。 クレヨン達は意識的にクレヨンに戻れるらしく、おとなしく箱へ入っている。それに引き換え、この紅ときたら。 「んー、風がきもちいーねー!」 後ろで大声で叫んでいる。ワンピースが風にひらひらとめくれ、見えてないか不安だ。 「ただいま」 「「「「「「おかえりー」」」」」」 起きていたほかの鉛筆たちが一斉に挨拶。この息の合い方はある意味素晴らしい。 チアリーディングでもさせたらすぐに良い成績を残せそうだ。 俺はジャンパーをハンガーにかけ、肩をぐるぐる回しベッドに座った。 「ほら、お前らの同輩で、新たな仲間だ」 と、持ってきたクレヨンの箱を開けた。中から飛び出る五人の女達。驚愕しながら見る鉛筆たち。 「私、桃。よろしくね」 「……み、水色……よろし……」 「あたしは茶! よろしく!」 「黄緑です。 以後お見知りおきを」 「群青よ。 よろしく」 騒がしい。女が三人寄ればかしましいとか言うが、今は十三人だぞ。どこぞの妹達より多いじゃないか。 数分も経たないうちに鉛筆たちとクレヨンたちは仲良くなったようで、ワイワイキャーキャーと騒いでいる。 隣からの苦情が心配だちくしょー。せっかく見つけた好物件、手放すわけにはいかない。 「仲良くなるのはいいことじゃん」 紅は俺の隣に腰掛け、眉間から皺が離れない俺に言う。 「騒がしくなけりゃ、な」 俺は苦笑いしながら答える。観察を続けると、性格が行動によく出ているのが手に取るようにわかる。 桃はちょっと天然が入っている。ところどころでボケをかましているようで、周りの人間はずこっとコケている。 水色は人見知り。まだ慣れてないようだ。いろんな人が話しかけるが、常に下を向き常におどおどしていた。 茶は明るいけどドジ。何回転べば気が済むのか。ひざなんかすりむいたりしてないだろうか。 黄緑は落ち着いている。保護者的存在だな。いつも優しい笑みをたたえた顔はまさに母親だ。 群青は俺と鉛筆たちとでは扱いが違う。なんでだ? 蒼と白は黄緑と談笑している。黄色とオレンジは茶色と一緒に大富豪。緑は本の虫。 黒と紫は桃と一緒にあくどいオーラを展開している。水色は部屋の隅でおろおろ。 「水色ちゃーん、こっちおーいでー」 見かねた紅が水色を手招きした。水色はそわそわしながらも、紅の隣にちょこんと座った。 俺が水色の方を見ると、赤くなって眼を背けてしまう。 「もー、恥ずかしいんだよー」 しっしっ、と俺を手で払う紅。苦笑いしか顔に浮かばない。その手を抑える水色。 「え、水色ちゃん、コイツと仲良くなりたいの?」 こくり。 「えー、獣だよー、悪魔だよー、それでもいーのー?」 「ちょっと待て」 こくり。 「……分かった。 んじゃ、お二人仲良くねー」 紅は立ち上がると、すたすたと大富豪で盛り上がっている輪の中へ入っていった。水色は少しずつ俺の方へ近づく。 じれったい。ナメクジの行進じゃないんだからもっとぐいっと。肩をつかんで、ぐいっ、とこちらへ近寄せる。 「!?」 ほのかに赤かった顔が火を噴いた。あたふたする水色を見て、ちょっとやりすぎた、と後悔。とりあえずは、 「落ち着けって。 ほら、しんこきゅー」 すー、はー。すー、はー。胸に手を当て、眼を閉じて、息を吸う時に肩が上げ、息を吐く時は肩を下げた。 「よし、落ち着いたな」 こくり。 「まあ、これからよろしくな」 「……よろしく……」 とだけ言うと、また顔が真っ赤になった。……俺にはもうどうにもできない。 「いー雰囲気だったよねー」 俺が水色をなんとかして騒がしい大富豪の輪へ入れてから、紫がぴこぴこと近寄ってきた。 「あ?」 「そうそう、気があるみたいだね」 黒が付け加える。桃は向こうで口に人差し指を当て首をかしげ「?」を頭に浮かべていた。 俺は大富豪の輪が気付いたら滅茶苦茶大きくなっている事に驚きながら答える。 「どっちが?」 「「どっちも」」 ハモったよこいつらは。 「……少なくとも、今の俺にそういう気は無い」 「えーつまんなーい」 紫はぷくっ、とふくれて文句を垂れる。そういわれた俺はどうすればいーんだ? 「そうには見えなかったけど、まあ、そうならいい」 黒はスタスタと歩いて、輪の一歩後ろで大富豪を見学し始めた。紫はなぜか「べーっ」と舌を出してとたとたと桃のもとへ走っていった。 桃は「えー、違うのぉ? てっきり、もうできちゃったかと」と口走った。 ……そのふくよかな胸を縛り上げないと分からないみたいだな。 俺の口がヒクヒクし始めた。うん、俺もちょっと大人気ない。反省しよう。 と、大富豪が終わったらしい。皆は続行する気満々だが、紅だけは抜けてきた。 次の大富豪には紅以外の全員が参加するようだ。かなりの大きな円である。 紅は俺の隣に座った。ちょっと申し訳なさそうな顔だ。 「ん? どうかしたか?」 「や、ちょっとあたし達が出てきたから疲れてるのかな、って」 どうも、紅は俺のことを心配してるみたいだ。やっぱり、友達にしたいタイプだ。 俺は思わず、紅の頭をわしゃわしゃ。びくっと紅の身体はこわばり、こちらを向いた。 「ひゃっ!? ちょ、何するのっ!?」 「心配する必要ねーよ。 これでも楽しんでるんだ」 「ほんと?」 紅は大きな瞳をウルウルさせながら訊いてきた。本当に心配のようだ。 「あぁ、本当だ。 お前らが気にすることじゃーねえ」 「……よかった」 紅は俺にもたれかかった。 「うおっ!?」 「ちょっとだけ、ちょっとだけ」 「……しかたねーな。ちょっとだけ、だぞ」 「うん」 俺の言葉を聞くと紅は、にかっ、と笑った。ふと、俺は紅から視線を大富豪の円へ向けた。嫌な予感。 他の鉛筆たちやクレヨンたちが、こちらを凝視していた。お前ら大富豪に集中しろ、といおうとした直後だ。 「全く、そうなら最初から言いなさい」 「空気読もうよ、皆ー」 「……そう」 「ほ、ほら、皆さんっ」 「からかった方が楽しいよー?」 「浮気症め」 「やーいうわきしょー」 「浮気症なんだねーてっきり、一途な人かなあって」 「……えぅ……」 「うひゃぁ、アツアツだねー」 「ほら、水色ちゃん、泣かない泣かない」 「ふ、ふん!」 皆、思い思いの言葉をブチ撒ける。俺は思わず、叫んだ。 「……ちくしょおおお!」 その後、隣人からお叱りを3時間ほどいただいた。俺は泣いた。
前へ 次へ 戻る  トップへ

[★高収入が可能!WEBデザインのプロになってみない?! Click Here! 自宅で仕事がしたい人必見! Click Here!]
[ CGIレンタルサービス | 100MBの無料HPスペース | 検索エンジン登録代行サービス ]
[ 初心者でも安心なレンタルサーバー。50MBで250円から。CGI・SSI・PHPが使えます。 ]


FC2 キャッシング 出会い 無料アクセス解析