「いらっしゃいませー。」 扉を開けると聞こえてくる、いつもの声。もう私は慣れるほどここに通いつめている。 半ば私の指定席となっているカウンターの隅へ座る。 周りを見ると、あまり人はいないようだ。昼の3時頃。 「今日のご注文は、いつもので?」 カウンターの奥からマスターが気さくに声をかけてくる。 私はマスターを正面から見据えて、えぇ、いつもので、と告げた。 カウンターのすぐ後ろにあるコーヒーメーカーにコーヒー豆を投入するマスター。 その奥にある厨房に、お目当ての人は居た。ウェイターの服装がよく似合っている。 短髪で、童顔。身長は私と同じくらい。今日こそは、と覚悟を決めてやってきた。 ことん、と私の前にコーヒーカップが置かれる。私はゆっくりと手に取り、口へと流し込む。 爽やかな香りと、心地よい苦味が口内に広がる。ここのアメリカンコーヒーは絶品だ。 一口喉に入れて、私はマスターに呼びかける。なんでしょう?と訊いてくるマスター。 「『―――――――』を呼んでくれない?」 切り出した。マスターは何をするのか、と言った好奇心の眼で私を見た。 その視線を厨房内の彼へ向け、マスターはこちらに来るように指示を出した。 彼は年齢にしては高い声で、はい、と答えた。声を聞くだけで私は悶えそうだ。 厨房内に控えていた他の3人が私のほうを向く。興味があるらしい。 彼がこちらへと歩いてくる。まだ、あどけなさの残る顔立ちをついつい見つめてしまう。 「こんにちは。」 彼は私の隣に座る。彼は他でも無い私に声をかけているのだ、と考えるだけで顔がにやけそうになる。 「こんにちは。」 にやけそうになるのはぐっとこらえたが、ついつい彼の顔をじろじろと見てしまう。 少し怪訝な表情をした彼。私は彼なら、と自分に言い聞かせるように頷き、咳払いをした。息をゆっくり吸い、告げる。 「単刀直入に言う。君の子供が欲しいんだ。」 急に沈黙する店内。誰もが驚きの表情を隠せない。お客が皆こちらを見ている。 私の脈は最高潮に達していた。マスターは顎が外れたようで、微動だにせずにこちらを見ている。 彼は少し呆けたように口を開け、少しどもりながら言葉を発する。 「それはひょっとして、新手のギャグですか?」 私の思いが伝わっていないようで、思わずむっ、としてしまう。 彼は突然の事態が飲み込めていないようだ。改めて告げる。 「失敬な。私は本気だ。君の子供が欲しい。」 更なる沈黙。店内の視線が全て私達に集中している。 厨房内からも3つの好奇心の視線が注がれていた。彼の頭から湯気が出始め、顔は紅潮していく。 視線が泳ぎ始める彼。返答を待っていると、彼は途切れ途切れに言った。 「あの、順序、ってものがありますよね?」 私の頭は段々と冷静になっていく。脈動も段々と平静時に近づいていく。 私は彼の眼を見据え、思ったとおりの言葉を彼にぶつける。 「順序は所詮順序でしかない。守らなければならないものではないだろう?」 彼の混乱は最大限に達した。焦点が定まっておらず、夢うつつの状態だ。 あと一歩、あと一歩だ、と考えていると、マスターが彼の肩を叩く。 彼は眼を輝かせながらマスターを見た。私は普段は信じていない神に祈った。 「仲人は俺がやろう。いつがいい?」 神は私に軍配を下した。この時ばかりは、天が私に味方したことを嬉しく思った。 色々と思案をめぐらすように、彼は視線を泳がせる。だが、結局は私のほうを向き、半ば諦めの表情になった。 そして、今私は彼と同棲している。挙式については、まだ決めてないがすぐにでも、と思っている。
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