「いらっしゃいませー。」 扉を開け、お客が入ってくる。カランコロン、と鈴が鳴る。 またあの人だ。毎日、同じ時間にやってくるのはどうしてだろう。 僕を含め、皆が不思議に思っている。マスターだけは分かってるようだけど、教えてくれない。 人はあまり居ない喫茶店。昼の3時頃。 いつもと同じく、カウンターの隅に座る彼女。ロングヘアーで、さらさらしたツヤのある黒髪。 達観したような眼をしている。世の全てを熟知していそうな、関わりにくい雰囲気を持っていた。 柳眉秀麗、という言葉がぴったりだ。かなりの美人ではあるが、注文はとりづらい。 マスターがじきじきに注文をとる。さすがマスター。そして、いつものようにコーヒーを一杯注文する。 僕は他の客にパフェを出し、厨房へと戻る。店員達と今日も語り合う。 流しの横にある椅子に座り、他の店員達の話に耳を澄ます。 「なあ、今日も来たな。」 茶の短髪の、バイト生が話を切り出した。僕は一歩外れて話を聞いていた。 同じく茶でツインテールのバイト生が話に乗る。 「そうねー。こうも同じ時間に来ると、何か裏がありそうね。」 先ほどの短髪が一回頷く。見かけは20代の女性が口元に手を当てながら言う。 「誰かが、お目当てなのかしら?」 その発言を聞いて、他の2人が小さな声ではあるが、騒ぎ出す。 「うそー?それはないんじゃない?」 「だけどよー、もしそうなら、誰なんだ?俺が注文とってもさほど反応しなかったし。」 うーん、と唸る仲良し3人組。3人とも、考える人のポーズで固まった。 僕はコップに自分用にお茶を注ぎ、飲んでいた。と、そんな時。 「おーい。『―――――――』いるかー?」 マスターが僕を呼ぶ声が聞こえた。即座に、はい、と返事をする。 3人はポーズを解き、マスターの声に集中した。 「お呼びだぞ。」 僕は頭に疑問符を浮かべた。お呼び?それって喫茶店の仕事ですかマスター?と心で呟いた。 「こんにちは。」 挨拶をして、僕は隣の椅子に座った。 彼女はコーヒーを半分ほど飲んでいた。カップからはまだわずかに湯気が出ている。 こちらを見た彼女の顔からは、表情を見出せない。 「こんにちは。」 他のお客さんは自分の食事や談笑などでこちらに注意を向けていない。 僕の顔をじろじろと見る彼女。僕は何となく気恥ずかしくなる。 彼女は、うん、と一度頷いた。こほん、と一回咳払いし、息をすぅ、と吸った。 「単刀直入に言う。君の子供が欲しいんだ。」 凛とした、よく響く声。店内の時が止まる。お客さんはこちらを注視。 あの3人は勿論のこと、マスターでさえ口をあんぐりとあけている。 僕はゆっくりと脳内で噛み砕く。そして、ある言葉を口に出す。 「それはひょっとして、新手のギャグか何かですか?」 彼女は少しむくれる。僕の拍動は早くなっていく。 ありえない、とは思いながらもわずかな期待をかけていった言葉は、即座に潰される。 「失敬な。私は本気だ。君の子供が欲しい。」 もう一度時が止まる。僕は耐え切れず、頭から蒸気を噴出す。顔はほおずきのようになっている。 混乱した思考回路で考える。必死に考えた末、解決策にはならないような言葉をつむぐ。 「あの、順序、ってものがありますよね?」 店内に居た全ての人が、僕と彼女の会話に全神経を集中した。 無表情に戻った彼女は、冷静に答える。それがさも当然、かのように。 「順序は所詮順序でしかない。守らなければならないものではないだろう?」 店内は沈黙。僕はどうしたらいいのか分からなくなった。 脳内では美人に告白された喜びよりも突然の事態による混乱で一杯だった。 どうしよう、と答えを出せずに同じ質問を反芻していると、カウンターの奥からマスターが僕の肩を叩く。 僕は希望に満ちた目でマスターを見た。救いの手を差し伸べてくれるものだと思っていた。 「仲人は俺がやろう。いつがいい?」 思考は闇に閉ざされた。僕の人生は、これからいろんな人にもてあそばれていくのか、と不安になった。 その時、僕の頭に「理由を訊く」という選択肢が浮かんだが、訊いても事態の解決にはならないだろうと思い直す。 そして、それから僕はなし崩し的に彼女と同棲する羽目に陥った。
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