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朝の8時半。静まり返った教室内。僕は顎が外れている。 皆は僕と担任を交互に見た。僕は訊く。 「その、もう一度仰ってくれませんか?」 担任も信じられない、といった顔で答える。 ゆっくり、冷静を装っている。だが、その声は裏返った。 「巧は、今からフェアリー・インダストリー社へ出向しなさい」
Mechanical Fairy ver 1.01 起動
9時43分。僕はフェアリー・インダストリー本社ビルの前に立っている。 フェアリー・インダストリー社(以後、FI社と略する)は、総合コンサルタントだ。 家電製品から軍需品までなんでもござれ、のかなり手広い会社である。 年商はウン百兆とまで言われる。所得税はいくらだろう、などと無駄なことを考えてしまう。 高さ100m以上ある本社ビルを見上げ、口をあんぐりとあける。 未だにこの事態が信じられない。だが、現実は変わらない。 僕は『テスト』のために呼ばれたのだ。あらたな兵器の。 詳細は言われていないが、どうやら世界を変える代物らしい。 「君が 神崎 巧(カンザキ タクミ)君か?」 後ろから声をかけられた。振り向く。 黒で短髪、メガネをかけ、痩せた長身の男性が声をかけていた。 「そうですが、あなたは?」 「……『チーフ』と呼んでくれ」 「はあ」 「では、積もる話は中で。 ついてきてくれ」 チーフは僕の肩をぽんっ、と一回叩き、本社の中へ入っていった。 物々しく、重そうな扉が目の前に在る。 チーフがカードキーを扉の横にピッ、と通した。 ゴゴゴゴ、と音を出しながら扉が上へあがっていく。 広い倉庫だ。中には、白と青でペインティングされた人型の機械があった。 チーフは中へ入り、僕を誘導した。訳も分からずついていく。 機械の目の前がチーフが立つ。僕は機械を見上げた。 ざっと、10mぐらいはあるだろう、大きな機械。腰には短銃らしきものが備えられていた。 チーフは機械を見上げ、指差しながら言った。 「君には、これに乗ってもらうよ」 「は?」 脊髄反射で聞き返す。チーフは顔を僕のほうへ向けた。 「ん? 聞こえなかったか?」 「いや、聞こえたんですが」 「なら、まずは乗ってみてくれ」 僕はすぐさま首を横に振った。 「そんな、動かし方なんて分かりませんよ」 チーフは、ははは、と少し笑った。僕の眉間に皺がよった。 「すまんな。 だが、君は『歩き方』が分からないのか?」 僕は首をかしげた。チーフは微笑みながら僕に言う。 「まあ、まずは乗ってくれ。話はそれからだ」 と、半ば強制的に僕をリフトへ。服装は制服のままだ。 ウィーン、とゆっくり上がっていく。僕は機体に見入っていた。 胸の高さまでリフトが上がると、ゆっくり機体へ近づいていく。 コクピットが開いた。座席が二つ。 一つは機体の正面を向き、もう片方は向かって左を向いていた。 その左の席には、見知らぬ女の子が一人。 青色の透き通る長髪で、かなり綺麗に見える。 だが、それに気をとられる余裕はない。僕は正面の座席へ座る。 頭上へ取り付けられたヘルメットを装着するよう指示される。 リフトの方からマイクでチーフの声が聞こえる。 『では、頭の中で起動――「ラン」と念じてくれ』 言われるがままに、頭で思考してみる。 ―起動(ラン)― 即座に視界が、変わった。 今までヘルメットのガラス越しにコクピットを見ていた視界が一旦闇に落ちた。 と思うと、なぜか視界には倉庫の光景が広がっていた。しかもかなり高い。 『君は今、何が見える?』 チーフの声。僕は質問に答える。 ―倉庫が見えます― 合成された音声が僕の肉声の代わりに答えた。 『よし、成功だ。 君は今、その機体と一体化している』 思考が止まった。一体何を言っているのだろうか、その疑念が頭を支配した。 考えようと、右手を頭にあてようとした。 機体の右手――手の甲が青く、それ以外は白い――が、視界に映った。 試しに拳を作ってみる。ゆっくり、機体の右手が拳を作った。 『君が身体を動かそうとすれば、その機体が動くようになっている』 チーフの声がした。その声はフィルターを通したように聞こえる。 『停動――「ランアウト」と念じれば止まるようになっている』 声が聞こえると同時に、頭で叫んだ。なんとなく、嫌な気分だった。 ―停動(ランアウト)― 視界がコクピットへと戻った。ヘルメットを外す。 精神的に疲れている。眠気がすさまじい。さっきの嫌気はコレか。 コクピットが開き、リフトからチーフの手が伸びる。 その手を掴み、僕はひきずられるようにしてコクピットから出る。 「最初の駆動で手まで動かすとは、中々センスがあるよ」 肩に手を置かれ、賞賛の言葉を放つチーフ。だが、僕は眠気でそれどころではない。 訊きたい事を手短に口に出す。 「あ、あれはなんですか?」 「アレが『テスト品』さ。名前を『P−VALKYRIE』と言う。 塗装も名前についている「ヴァルキリー」もしくは「ワルキューレ」をイメージしている」 よくゲームとか漫画とかで眼にする、いわゆる「死の天使」かな? ……なんとなく不吉で、嫌な予感がする。そんな予感を胸の奥にしまいこみ、僕は訊ねる。 「なんで『P』なんですか?」 「プロトタイプだから」 「……さいですか」 「まあ、まずはゆっくり休め。 あのシステムはかなり疲れるだろう」 その言葉通り、疲労のせいで身体がだるい。肉体的ではなく精神的なものだ。 リフトが地面につくと、チーフは僕に肩を貸してくれた。 本社に隣接された研究所の一室を僕の部屋としてあてがった。 僕は部屋につくなり、すぐベッドに横になり泥のように眠った。 眼が覚める。 まだ疲労感は抜けない。ゆっくりと起き上がる。 寝る前はあまり眼を向けなかった部屋を見てみる。 机が一つ、窓が一つ、ベッドが一つ、備え付けの風呂とトイレがひとつずつ。 何故か隣にさっきのコクピットの女の子が寝ている。 事態をやっとのことで飲み込み、ずざざざざっ、と部屋の端へ移動。 女の子が起き上がり、眼をこすり、 「おはようございます」 とそれがさも自然、といったように言う。 ……なんなんだこの娘は。 青い長髪がサラサラとなびいて、何故か裸。毛布で身体を隠しているようだ。 「……おはよう。 失礼だけど、名前は?」 まずは名前を聞くのが紳士のすること。…え、違う? 「素体・C00LNP9(ソタイ・シーゼロゼロエルエヌピーキュー)です」 「……はい?」 「ですから、素体C00LNP9です」 僕は頭をがりがり、とかく。あたりを見回す。 机の上にメモ用紙とシャープペンを発見する。立ち上がり、その二つを取って、 「……紙に書いて」 「分かりました」 サラサラ、とシャープペンで書く彼女。ひどく美しい。 彼女は紙を一枚、こちらへと渡す。 確かに『素体C00LNP9』と書かれている。再び頭をがりがりとかく僕。 どうしたものか。 「彼女は君のパートナーだよ」 扉を開けながらチーフが入ってきた。彼女をみて、ため息をつく。 「……毎度、パートナーを襲う癖はやめなさい」 「はい、チーフ」 何? 毎度のことなのかコレ? 「で、彼女は?」 「文字通り。『素体』だ。君とP−VALKYRIEを繋ぐ素体」 「……は?」 「つまり、彼女を通して君はP−VALKYRIEとつながっているのだ」 ゆっくり言葉を脳内で噛み砕く。 「……要は、接続端子?」 解釈結果を口に出す。チーフは一回頷き、 「そんなものだ。これから一ヶ月ほど、一緒に生活してもらう」 「……は?」 頭を衝撃が貫いた。寝起きには辛い一発。 ちょっと待て、仮にも年頃の男と女が、一つ屋根の下に? 「そうだ。親睦具合が接続状況を左右するのでね。手っ取り早く仲良くなってもらわないとな」 さも当然、といったように話すチーフ。顎が外れる僕。 「では、仲良く。 明日詳細を説明しよう。 ちなみに、彼女に生殖機能はないぞ」 ニヤニヤした笑いを浮かべ、部屋を出て行くチーフ。故意犯か? 僕は視線をチーフが出て行った扉へ向けていた。数秒経ち、ゆっくりと彼女へ戻す。 「……素体、C00……なんだっけ?」 「はい、素体C00LNP9です。神崎巧様」 「……長いね……そうだ、『C00(シーゼロゼロ)』が『COO(シーオーオー)』に見えるから『クー』って読んでいいかな?」 「別に構いませんが、神崎巧様がそう仰りたいのなら」 彼女は口に出しながら、浮世離れした顔―表情と呼べるものはない―をこちらへ向けた。 僕はその視線に押されて気をつけの姿勢になる。彼女はゆっくりと正座をした。 「そ、それと、僕の事は『巧』で良いから」 「はい、巧さ……巧」 「うん、おっけー。よろしく、クー」 僕はベッドへ近づきこしかけ、クーへ手を差し出す。 クーは僕の差し出された手を握った。細く、白い。そして、暖かかった。 「こちらこそ、よろしくお願いします。巧」
本格的な駆動試験が始まる。 なぜ自分が選ばれたのか?その疑問を抱きつつ試験をこなす巧。 巧は段々とクーへ淡い気持ちを抱き始める。 そして、巧が選ばれた理由とは? 次回、Mechanical Fairy「兵器」
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