俺の心には、ぽっかりと穴が空いていた。 騒がしくなくなった部屋。折れた色鉛筆と、クレヨンが散らばった部屋。 ……俺は、その日何をしたのか、覚えていない。 目を覚ますと、丁寧に色鉛筆とクレヨンがテープでとめられていた。 また、朝起きれば、あいつらに会えると思って。 信じていた。 でも、起きても何も無かった。 それから、俺は以前の日常に戻った。 何も代わり映えのしない、潤いも、「色」もない生活に。 俺は、仕事と勉強に没頭した。 何かをしていなければ、俺は崩壊していた。 何かある分、俺はまだ救われていたのかもしれない。 思い出すと、確実に堰が壊れる。 何も考えない。 考えたくない。 俺は、没頭した。 7年後。 私立の小学校教諭になっていた俺は、新しく1年生を持つことになった。 なった頃から受け持ってきた学年と離れ、今度新しく入ってくる子達。 その子らと会うのを楽しみにしていた。 新しい「色」がつき始めた生活に、慣れてきていた。 俺は、新入生の顔を見るまで、名簿は見ないことにしている。 名前から入る先入観が、その子達と違う結果になってしまうことも多々あるからだ。 桜舞う校庭を歩き、初々しい子供たちを見ながら、俺は校舎へと入った。 入学式は無い。 そういう格式ばったものにとらわれないここ、「雨弓学園」の初等部。 まだ中を見たことが無い、真新しい名簿を持って、教室の前に立つ。 通いなれた廊下、そして教室ではあるが、この季節になれば真新しく見えるのはなんでだろう。 新しい子達は、どんな子達なのだろう。やんちゃかな。おとなしいかな。 期待に胸膨らむ。 俺は、木で作られたドアを、開けた。 「あ、先生入ってきたよー!」 「みんな席に座ってー」 「はいはーい」 「……」 「分かっていますー」 「えー、もっと遊びたいのにー!」 「えーっと、わたしの席はどこー?」 「ふん、つまらなさそうなヤツ」 「え、えと」 「まあ、中の上、ってとこかな」 「おはようございますっ」 「ほらほら、みんな、座りましょう」 ……なんだこの既視感は。 少人数制であるから、ひとつひとつのクラスは少ない。 そういえば、俺の受け持つクラスは女の子ばっかりだったな。 確か、受かった男女比が少し歪な関係上らしいが。 俺は何か、何かは分からんが、こみ上げるものを感じながら、教壇の前に立つ。 「えーっと、それじゃあ、まずは自己紹介からいこうか」 席に座った子達に促す。まずは、赤い髪の子。 「はーい、あたしは赤松 紅葉(あかまつ もみじ)! よろしくお願いしますっ!」 「私は青井 葵(あおい あおい)です。 よろしくお願いします」 「黄木 色(きき しき)とはあたしのこと! よろー!」 「……若葉 碧(わかば みどり)……よろしく」 「えと、白崎 純(しろさき じゅん)です。 ご迷惑おかけしますがよろしくお願いします」 「白ちゃん、もちょっとフランクにいこうよ! あ、あたしは織路 橙(おれじ だいだい)!」 「黒崎 闇(くろさき あん)だ。 よろしく」 「えーっと、桃江 李(ももえ すもも)です、よろしくお願いしますー」 「み、水原 水香(みずはら すいか)です、よ、よろしく……」 「茶蕪羅 運(さぶら さだめ)です! よろしくお願いしまーす!」 「黄木 観鳥(きき みとり)です。 色の双子の姉です、よろしくお願いしますね」 「青井 群(あおい むれ)よ。 葵の従姉。よろしく」 ……そうか、分かった。 理解した途端、俺の目の端から熱いもの一筋、伝った。 「先生、どうしたの?」 紅葉が聞く。 あいつらか。あいつらが、人間になったんだな。 7年、か。そうか、そんなに経ったんだな。思い出したよ。 さあ、教えてなかったことを言おう。 7年越しに、あいつらに、教えていなかったことを。 「俺の名前は、霧消 護(きりきえ まもる)だ。 一年間、よろしくな」 「……あたし、あの先生知ってるかも」 「えー、紅葉、知ってるの!?」 「わかんないけど、ずっと前に、知っていた気がする」
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