「問一はここが……」 授業中の教室は静まり返っている。 受験一週間前で、皆がピリピリした雰囲気を出している。かく言う僕も受験生だけど。 僕の志望校は実力よりもちょっと上ぐらいで、少し不安だ。 クーはその学校に推薦で合格している。だから、なんとしても行きたい。 僕とクーの馴れ初めは高校から。あのクラスの真ん中の告白から、もう3年も経った。 あれから、僕は毎日クーの言動に振り回されて、恥ずかしい思いをしてきた。 クーは、僕に会うために学校に来ている、とまで言ってのけた。 でも、今、クーは学校に来ていない。僕の受験の一ヶ月前から、来なくなった。 なんでだろう? その疑念が、僕の集中力を削いだ。 クーほどじゃないけど、僕はクーが傍にいて欲しかった。 携帯に電話もした。メールもした。でも、何の返答も無い。 クーの身に何か起きたわけではないみたいだから、安心だけど。 「では、『――――――』、問二の答えを」 僕は思考の砂漠から急に現実の岸にまで引きずられていった。 「は、はいっ!」 黒板を見て、問題を把握し、ノートを見て答えを言う。 この順番を、僕はぎこちない動きでする。先生は少し笑いながら僕を見た。 「正解は正解だが……大丈夫か? 緊張でもしてるのか? 柄にも無いな」 僕は愛想笑いを浮かべ、席に座る。 先生はさほど意に介さない様子で問題の解説を再開した。 上の空で僕は先生の説明を聞いていた。 頭の中では、クーのことで一杯だった。 クーは今、何をしているんだろう? クーは今、何を思ってるんだろう? 直接家に行けばいいんだろうけど、クーのことだから、何か考えがあるのかな。 僕は自問自答しながら、その日その日を過ごしていった。 受験の前に、クーから何かしらのアクションがあることを期待して。 「……で、結局受験当日ですか」 僕は試験会場、つまり志望校の正門の前でため息をついた。 見知った先生達が、同輩達を激励していく。同輩達は笑顔で返す。 僕はその中で、正門に立ち尽くしていた。いや、待っていた。 時間ギリギリになるまで、僕は正門に立っていた。 その様子を見た担任が僕に声をかけてきた。 「ほら、早く入りなさい」 黒縁で、太目のフレームのメガネをキラリと光らせながら告げる。 僕は首を振って、先生の眼を見据えた。 「いえ、もう少し」 「そうですか。 遅刻だけはしないように」 僕の意図を感じ取ったのか、先生は他の生徒のもとに歩いていった。 少しだけ、期待があった。少しだけ、確信があった。 待っていれば、僕の望んだものが来る、なんとなくだけど、そう思っていた。 あと七分で試験開始、という時に駅の方から走ってくる女子が眼に入った。 黒で長い髪を揺らし、白い息を吐きながら走ってくる。手には大きな紙袋が。 遠目で見ても分かりやすいなあ、と僕の顔は自然に微笑を作った。 走ってくる彼女、クーは僕の姿を見るや否や、大きく手を振って僕の名を叫んだ。 「『――――――』!」 僕はにっこりと笑いながら、手を振った。 「間に合わないかと思ったよ」 荒い息を整えながら、クーは言った。僕は紙袋を指差しながら質問する。 「で、それは何?」 「ああ、これね」 クーはガサゴソ、と音を立てて紙袋に手を突っ込んだ。 中からは赤とピンクの鮮やかなマフラーが出てきた。 「ほら、これ」 僕へマフラーを手渡すクー。その指は、いくつか絆創膏が巻かれていた。 僕はその場で首に巻いてみる。あったかい。 「ありがとう」 マフラーのお礼だけでなく、久しぶりに僕に会いに来てくれた、その想いを一言に乗せた。 クーは僕の言葉を聞くと、にこっ、とかわいらしい笑顔を浮かべた。 「ふふ、どういたしまして」 直後、クーが僕に寄りかかってきた。わわわ、と思わず声に出してしまう。 皆がこっちを見ている。かなり恥ずかしい。でも、久しぶりだからちょっと嬉しい。 寄りかかったまま、クーは背伸びをして僕に囁く。 「試験、頑張ってね。 合格するよう、祈ってるから」 「うん、ありがとう」 周りからの揶揄が聞こえてくる。寒さのせいで耳は赤かったけど、顔も段々と赤くなる。 クーの腕に抱かれている感触を味わっていると、ツカツカと歩く音が聞こえてきた。 担任がクーの耳を引っ張り、僕から無理矢理引き剥がす。 「ほぉらぁ、試験前に舞い上がらせちゃダメでしょー?」 「す、すいません、い、痛い……」 いつもは冷静なクーが、耳を押さえて涙眼になっている。少し笑ってしまう。 「あはは……じゃ、行ってくる」 僕は担任とクーに手を振り、正門をくぐった。 僕の心の欠けた部分は補われた。もう、大丈夫。僕はクーの暖かさを首に感じながら、歩いていった。
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