「好きだ。」 口の中で転がしながら勉強をしている彼を後ろから抱きつく。もちろん愛情からだ。 周りの皆は眼を丸くし、驚きの声とと歓声を上げた。 「うわあああぁぁっ!」 紅くなりながら私のほうを見て、再びそむける。 可愛いやつだ。頭をわしゃわしゃしてやる。 「んああぁっ!?」 手を離すと、すぐに頭を手ぐしでとく。なんとも可愛らしい。 別に虐めたいわけじゃないが、なんとなくちょっかいを出したがる。 アンパンを投げられたり、羨望の眼差しを受けたり。そんな平和が、突如終わりを告げた。 「動くなあっ!!」 野太い、大きな声。皆がそちらのほうを向く。 軍服を着た男が数名。手にはサブマシンガンやハンドガン。 頭には『革命』と書かれた赤いハチマキ。皆は銃を突きつけられ、正門前へと歩いていった。 声明を聞くと、どうやら過激派によるテロのようで、様々な場所で同時に行われているらしい。 皆は壁際に固まり、震えていた。しかし、彼だけは、決意に満ちた目をしていた。 何か、悲しい決意を感じさせる眼だった。 「『僕』と引き換えに皆を助ける。」 彼はつぶやいた。私は何がなんだか分からなかった。 急に立ち上がる彼。一歩、二歩と私達から離れていく。 当然、相手は銃を向けてくる。だが、彼は歩き続けた。右腕の周りが、うっすらと黒い闇に覆われていた。 「これが、『僕』さ。」 彼は、校舎の壁に激突して気絶しているゲリラを見ながら言った。私は我が目を疑った。 彼の右腕は、漆黒で、華奢な彼の身体と同じぐらい太く、鱗のようなもので覆われていた。「変化した」。 その右手で銃弾を全て弾き返し、人を殴ると2,30mは飛んだ。一騎当千、といえば聞こえはいい。 彼はこちらを向いた。表情には、憂いしかなかった。彼の眼に光は宿っていなかった。 視線を私にやった。私は彼を正面から見据えた。周りに居た者たちは、戦々恐々としていた。 一歩、彼は壁に背をつけ、恐怖におののき固まっている私達に近づこうとした。 「く、くるなっ!化け物ォッ!」 ある男子が叫んだ。同調し、男子も、女子も、彼に罵言を浴びせた。 ついさっきまで、あんなに仲が良かったのに。 ついさっきまで、私達のために戦っていたのに。 ついさっきまで、私に、いや、皆に笑いかけていたのに。 彼は、視線を私達から外した。私達に背を向けた。声は、心なしか震えていた。 「やっぱね。僕は、この場に居ちゃいけないんだ。」 そう言うと、彼は歩き出した。正門から外へ出ようとした。 私は、考える前に身体が動いた。後ろから、彼に抱きついた。愛情ではない何かに突き動かされた。 「どこへ、行くんだ?君は、私を置いていくのか?」 私の言葉は、彼の言葉にかき消された。 静かな学校に響く、彼の、伸びやかな声。爽やかな声。だが、今は悲しみしか与えない声。 「君に、迷惑がかかるからね。ごめん。」 彼はそう言うと、私を振り払った。変わった右腕は、すでに普通の人の腕に戻っていた。 そのまま、彼は正門から外へ出て、私の視界から消えた。 いつもなら、私もついていこうとした。いや、ついていこうとした「はず」だった。 だが、私は気付いた。私も皆と一緒なのだ。『異常な』彼を、受け容れられなかったのだ。 そして数日後に、私は知ることになる。彼が『兵器』として扱われているのを。
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