「おはよう。」 朝の8時30分頃。教室。澄んだ綺麗な声が僕に向けられる。 美人で有名なクーさんはなぜか毎日僕に挨拶をする。もちろん「クー」はあだ名だ。 僕は顔が格好良いわけでもなく、とりわけ何か取り柄があるわけでもない。 挨拶をするたびに周りの視線が厳しくなるのは何故だろう。 クーさんの席は僕の席とは遠いけど、休み時間は毎回僕の元へ来る。 他愛の無い会話をしている。たまに爆弾発言が飛び出すのはやめてほしいけど。 例えば「好きな人の子供は今でも欲しい」「この場でキスしてもいいな」とか。 その時はいつも、クーさんは眼を輝かせて僕を見て、周り(特に男子)は僕に対して殺意に似た視線を突き刺す。 文化祭や体育大会中も何故か僕にくっついている。腕を何度組まされそうになったことか。 その度に振り払う僕。なぜかって?勘違いされて殺されると困るから。 学期も終わりつつある12月24日、クラスでパーティーをしようと言う企画が上がった。 翌日はクリスマスだから、オールで騒ごう、とクラスの誰かが言って、誰かが賛成した。 全員参加といわれたけど、僕はあまり参加したくなかった。僕は、クラスの中で浮いていたからだ。 自分からは喋らないし、いつも席に座って本を読んでいるから、クラス内では関わりにくいと陰口を叩かれた。 女子なんかは特に激しくて、僕と席が隣になったり同じ委員会になったりすると露骨に嫌な顔をする。 そんなだから、僕は気が引けていた。でも、結局参加する事になった。 午後の4時。学校の近くのレストラン。宴会も引き受けているようで、誰かがすでに予約していたようだ。 参加費、ということで1人500円ずつ徴収される。 料理が運ばれてきて、皆は騒ぎ出す。1年間の思い出を皆は語った。 僕は隅で何をするでもなく、座っていた。水を飲んでは皆の動向を気にした。 誰も、僕に話しかけなかった。それも仕方ないかな、と僕は思っていた。 クーさんは男子に囲まれて、色々と質問されていた。人気者は辛いよな。 そう思っていると、クーさんはおもむろに立ち上がり、男子を払いのけ、僕の隣に座った。 急なことで、ビックリする僕。クーさんは僕に煮物を薦めながら 「食べないの?」 と言った。僕は顔の前で手を振る。。あまり食欲が湧かないし、周りからの眼が怖い。 クーさんは少し思案して、頭上に電球を光らせた。箸で煮物を掴み、僕の目の前へ持ってきた。 「ほら、『あーん』して。」 周りの黒い光が一段と強くなった気がした。僕は脊髄反射で頭を振って、 「そんな、悪いよ。」 と断った。でも、クーさんはお構いなしにどんどん僕に近づいていく。 壁際まで追い込まれた僕。有無を言わせず、したかったらしい。 僕は色々と諦めて、口を開けた。煮物の味が口に広がる。やはり店の料理だから美味しい。 少しもぐもぐと咀嚼。周りは会話が途絶えていて、皆が僕とクーさんを見ていた。 パーティーも終わり、皆はそれぞれの帰路についた。時計を見ると、既に夜の9時になっていた。 何故か男子から一撃ずつもらった僕。路上でうずくまる僕の隣に、クーさんはずっと居た。 僕はなんとかして立ち上がり、ため息を一回つく。クーさんは、 「大丈夫?」 と僕に質問した。大半はアナタのせいですよ、と思ったけど敢えて言わないことにした。 クーさんは一歩二歩前に出て、ガッツポーズをしながら言った。 「これで既成事実が出来たはずね。」 何がなんだか分からなかった。夜空には綺麗な星が瞬いていた。 周りはクリスマスムード一色で、どこもかしこもカップルで一杯だった。 僕の脳内は疑問符に支配された。考えてもショートするだけなので、質問する。 「えと、どういうこと?」 周りには少ししか電灯が無かったけど、なぜかクーさんの姿ははっきりと見えた。 クーさんは振り返って、わずかに微笑みながら言った。 「キミが好き。」 僕の顎が外れた音がした。思考回路はショートどころか爆発炎上。 一時腑抜けた顔をする僕。クーさんは微笑から無表情に戻り、 「どうしたの?」 と声をかける。数秒経って意味を飲み込んだ僕の顔は真っ赤になっていく。 そういうものとは一切無縁だと思っていた。最初の相手がクーさんだから、尚更だった。 僕は何も動かなかった。視界には、ゆっくりと近づいてくるクーさんが見えた。 すぐ前に立ったクーさんは、とどめの一言を放った。 「好き。付き合ってくれない?」 僕は、状況を飲み込むにつれて、嬉しさと不安がこみ上げてきた。 学校で一番と謳われるクーさんと付き合える、という喜び。 そうすると学校全体の男子達を敵に回してしまう、という不安。 両方が僕の心の領土を占領して奪い合っていった。均衡状態。 そんな時、僕はある疑問が浮かんだ。思わずぶつけてみる。 「どうして僕なのさ?僕よりも良い人は沢山いるんじゃない?」 クーさんは首を振った。突然クーさんは僕の手を握り、僕の眼を見据えて言った。 「思ったとおり、手があったかい。キミは暖かいんだよ。身体も、心も。」 僕の真っ赤な顔が更に赤くなった。闇夜にも分かるぐらい、赤くなった気がした。 クーさんは僕の手を握りつつ、僕を見た。僕は何も言えず、黙っていた。なんとなく恥かしかった。 じれったくなったのか、クーさんは僕に言った。 「それで、付き合ってくれるの?くれないの?」 僕とクーさんの身長差は約5cmほど。必然的にクーさんは僕を上目遣いで見る。 僕の不安は、その視線の援護を受けた喜びに敗北した。 「そ、その。僕でよければ。」 その言葉を聞いたクーさんは、また、すこしだけど微笑んだ。 僕は、周りに何も無いように感じた。クーさんの微笑みに引き込まれた気がした。
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