一人暮らしをしようと思ってもアパートが見つからない。 そこで先輩に居候させてくれるよう、お願いした。 先輩は快諾。すぐに荷物の準備をして、この状況まで一直線。 待ち合わせの駅ではすぐに先輩を見つけることが出来た。 ナンパ人をことごとく斬り捨てているのが聞こえたからだ。 腰まで届く長い黒髪、銀のメガネ、深い蒼の地で水面に模された柄のTシャツにジーンズ、革靴。 キャリアウーマン的な容姿に男は釘付け、そして撃沈。 まさに絵に描いたような行動、台詞で屠られていくナンパ人。少しかわいそうだ。 先輩が僕に気付く。 「遅かったな。」 時計を見る。待ち合わせの時間にはまだ10分ある。 「先輩が早すぎるだけですよ。」 すこし苦笑いしながら答える。 大学時代、待ち合わせ場所にはいつも一番に居た先輩を思い出しながら。 先輩は表情を変えず、踵を返し、 「そうか。」 とだけ言う。大学時代、憧れていた先輩そのものだった。 あの頃と何も変わらない。そのことに安堵しつつ、先輩の後ろをついていく。 先輩の住むアパートは駅から5分、といったところ。 壁がベージュ色で塗られていて、少し新しい感じのするアパート。 先輩の部屋は2階の一番奥。 細く綺麗な指先でポケットから鍵を取り出し、扉を開ける。 「少し散らかっているが気にするな。」 大学時代の(憧れの)先輩にのところに居候させてもらう。 ある意味異常な事態に心臓の脈動は激しくなり、少し顔が熱い。 もしかしてあれやこれやと妄想を膨らましつつ部屋へ。 床はフローリング。玄関の靴箱は綺麗に生理整頓されている。 細い廊下の左側には洗面所と風呂場があり、右には台所。まっすぐ進むと生活スペースがある。 先輩はそのまま台所へ。夕餉の準備に入ったのだろう。 1DKで、10帖ほど。一人暮らしには少し大きい。 部屋にある家具は机とPC、テーブルぐらいしか見当たらない。 フローリングにカーペットを敷いている。床には何も落ちていない。 カーテンは淡いピンク色で、花柄。先輩のイメージに割と合わない。 書類棚つきの机の上は綺麗に整頓され、書類棚も種類ごとにファイルに綴じられている。 右半分をノート型PCが占拠している。 テーブルの上には大学時代の僕と先輩が映っている写真が写真建てに入れられて飾られていた。 ベッドは無い。おそらく布団を敷いて寝ているのだろう。 台所は一人暮らしに最適な、小さい冷蔵庫が隅に置かれている。 洗面所はざっと見ただけだが、かなり整頓されていた。 コンソメスープの良い香りが台所からする。 「ぜんぜん散らかってないじゃないですか。すごく整頓されてますよ。」 顔の赤みやそのほか邪念は消え去り、単に驚嘆の声を台所へ。 先輩は火元に注意を払いながらこちらを向き、 「そうか?かわいい後輩が来るときはもっと片付けようと思ったのだが。」 言うと、すぐに林檎をむきはじめる。 ほとんど料理は終わっていて、デザートをむいているようだった。 『かわいい』という言葉から胸に熱いものを感じる。顔が再び熱を帯びる。 テーブルの前であぐらをかき色々と考えをめぐらす。 「先輩は、どうして居候を許してくれたんですか?」 更に顔が火照る。それを見られないように、台所とは反対の窓を向きながら言う。 当然ながら、台所の先輩の行動は見えない。 1、2分とない少しの静寂。 居心地が悪い。なんとなく不安を感じる。 静寂をはねのける先輩の声。 「それは、」 同時に、僕の顔が強引に向きを変え、 一瞬、唇に柔らかい感触。 先輩の顔が目の前に。 滅多に見せない笑顔で。 「好きだからだ。」 顔が発火。心臓はまさに「爆発寸前」。予想外。 何を言おうか考え付かない。頭がぼーっとする。目の焦点が合わない。 「ちょ、せ、せんぱ、え?」 もはや日本語になっていない。 普段の冷静なイメージとは違いすぎる。 「なんだ、聞こえなかったのか?」 驚きの表情で先輩は言う。 僕は固まって何も出来ない。 石像になった僕の後ろへまわりこみ、僕を包む。 そして、耳元でささやく。 「好きだからだ。大学の頃から、な。」
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