「と、言うわけだ。君には補習を受けてもらうよ。」 メガネで、長い髪をお下げにしている委員長は俺に言った。 確かに俺は欠席とかしてるし、人を殴ったりもしたし、成績も悪い。 周りは「やっちゃったよあの委員長」という眼をしている。 多分、殴られるぞ、とか思ってんだろう。違う。俺だって殴りたくて殴ってんじゃない。 生来目つきが悪いから勝手に相手が喧嘩売って、勝手に負けてるだけ。要は正当防衛なんだ。 だが、やっぱ悪い目つきのおかげで大体が俺のせいになる。今じゃ弁解もだるいのでしない。 「はいはい。」 と言うわけで適当に返事をする。委員長はしつこいことで有名だ。 メガネをキラリと光らせた委員長。それでいい、といわんばかりに頷く。 俺はため息を吐きつつ、窓の外を見ることにした。 放課後。夕陽が照らす教室には俺と委員長だけ。 俺は机に肘をついて「だるい」という意思をボディランゲージで示す。 それを見た委員長は、一回ため息をついてつかつか近寄ってくる。 「君には勉強する気はあるのか?」 特徴的な男言葉に透明な声を乗せて、俺の鼓膜を揺らす。 俺は軽く首を振って、委員長を見ながら言う。 「正直言って、ないが。」 再びため息をつく委員長。諦めたように首を振る。 だが、その後机に力強く手をつき、俺の目を見据えて、宣言した。 「では、以後私が放課後に個人指導をしよう。異論はないな?」 俺は不思議と怒りを覚えるよりも、疑問の方が思い浮かんだ。 なぜコイツはそこまで俺に勉強させたいんだ?疑問をぶつけてみる。 「俺に勉強させてどうすんだ?」 質問を聞くと、委員長はゆっくりとメガネを外し、お下げを解き始めた。長い髪が解き放たれ、ふわりと舞う。 俺はその行動を不可解に見ていた。ちょっと可愛いかも、と思った自分がかなり憎い。 メガネをケースにしまい、髪を整えた委員長は言った。 「私に似合う人になってもらうんだ。」 夕陽は段々と斜めになっていき、影が伸びる。 教室の俺と委員長は数分間黙ったまま。俺は何も言えない。委員長は俺の回答を待っている。 なんとかして足りない脳味噌を酷使し、導き出した返答を言う。 「どういうことだ?答えようによっちゃ、殴るが?」 握り拳を作りながら言う。正直、回りくどい言い方は好きではない。 委員長は「ふむ」と一言。腕を組んで、無表情のまま告げる。 「私の一生の伴侶となるに、相応しい人にするためだ。」 思考停止。顎は外れたが、それは問題ではない。 こいつ、なんつった?今?伴侶?え?と、脳内の俺が代わりに疑問を独り言。 失われた自立回路が再び欠片を集め、再起動を果たす。とりあえず、質問する。 「どういうことだ?」 握られた拳はいつの間にかほどかれ、なんともいえない不安が脳内を支配。 委員長は俺の言葉を聞くと、俺に近づき、肩をつかんだ。案外力は強い。 「私とつがいになる、ということだ。要は、私が君を好きなんだ。」 口がパクパクし始めた。手がわなわなと震えた。顔に赤みが増し始めた。 一体こいつはどういう神経をしているんだ?と脳内の俺が突っ込んだ。 誤解とはいえ、仮にも悪いイメージをもたれている俺を、よりにもよって好き、といえるんだ? 疑問の水は思考の泉からどんどん湧き出てくる。一言で集約し、突きつける。 「何故、俺を好きになった?」 委員長は驚いた顔をした。当然の疑問だと思ったが、委員長は当然と思わなかったらしい。 さらに陽が沈んでいく。段々と、夜の暗闇が学校全体を包んでいく。 「人を好きになるのに、理由はいるのか?」 こう言い始めると、委員長は自分の考えを曲げないのを、俺は身をもって知っていた。 俺はショートしかけた脳で考えた。そして、妙案を思いついた。 「分かった。勉強しよう。ただし、」 その言葉に反応した委員長は、前のめりになって続きを聞こうとする。 無表情ながら、眼に輝きが宿っていた。俺は続ける。 「学校ではメガネではなくコンタクトに、髪は留めない、結ばない。これが条件だ。」 委員長は「私のアイデンティティーが」とぶつぶつ言っていたが、しぶしぶ承諾したようだ。 そして、委員長は俺に手を差し出した。 「では、手を繋ぐことから始めようか。」 俺は席から立った。既に夕方から夜に移行し、夕闇が取り囲んでいた。 手を握った。暖かい。流されるのは嫌いだが、たまにはいいか、と思った。
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